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2013.11.11栄養成分による免疫強化の役割

(財)長寿科学新興財団 理事長 佐分利 輝彦 氏

O-157感染以降、人類の記憶から薄れつつあった感染症の恐怖が再びよみがえろうとしている。近年、現代人の菌への抵抗力の弱さが指摘されているが、今後日頃の食生活で免疫力を高める栄養管理が必要とされる時代が到来している。(財)長寿科学振興財団の佐分利 輝彦理事長に食品の持つ栄養成分における生体防御作用などうかがった。

佐分利 輝彦(さぶり てるひこ)

(財)長寿科学振興財団理事長

栄養成分による免疫強化の役割

(財)長寿科学振興財団理事長
佐分利 輝彦 氏

— 食品の栄養成分における生体防御機能についてお聞かせください

佐分利:食品の機能には大きく分けて栄養機能、嗜好機能、そして三つ目に生体を活性化させる生理機能があります。この生体活性機能というのは、生体の恒常性の維持、生体の平衡を保つために神経とかホルモンを調節する機能のことです。つまり、自然治癒力を養い、免疫力を高める作用があるわけです。

近年、栄養状態と免疫に関する問題が重要視されるようになってきています。例えば、病気になった時、医療は「治療の補助手段」としての役割を果たしますが、患者は何よりも自己の免疫力を最大限に高める努力をしなくてはなりません。そこで日頃から適切な栄養管理を行ない、種々の代謝を盛んにし、生体防御機能を高めていくことが大切になるわけです。

— 免疫力を高める食品にはどのようなものがありますか。

佐分利:免疫を強化する食品というのはこれまでにたくさんわかっています。クロレラなども免疫の強化に役立つといわれています。その他、キノコ類、ヒジキ、ホンダワラ、岩ノリ類などの藻類、ビール酵母、ヨーグルト、納豆などの発酵乳、アワビ、ホタテなどの軟体動物、山芋、人参、豆類、ニンニクなどの野菜、キンカン、ナツメ、松の実、緑茶や植物油なども免疫強化食品として挙げられます。

— 米国では穀類を中心とした日本食が免疫強化に関わると高く評価されていますが

佐分利: 穀類、海藻、大豆など伝統的な日本食は腸内有用菌の産生を促し、抵抗力のある身体を作ります。日頃からそうした食品を摂ることを心掛けるべきです。ただし、免疫強化食品という観点からみると、天然の食品に含まれる免疫賦活物質の多くは栄養価のない多糖類と呼ばれるもので、分子量が大きいため、いくら食べてもごくわずかしか吸収されないということがあります。
ですから、免疫強化食品ということであれば、有効成分を血中に入りやすくするために、加工を加えて吸収率を高める必要があります。そうした生物学的、化学的手法により機能を高めた免疫強化食品としては、食物繊維のアラビノキシラン、ニンニクエキス、ゴマ、高麗人参エキス、乳酸菌、ビタミンCなどがあります。

— 医薬品と食品の役割分担についてどのようにお考えですか

佐分利:19世紀以降、化学者たちは医療に使用している植物から有効成分だけを抽出して薬として使用するようになりました。最初に抽出に成功したのはモルヒネで1807年のことです。その後、微生物が生産するペニシリンのような抗生物質が続々と開発されましたが、薬には感染症やさまざまな疾病を緩和する「対症療法」としての役割はありますが、近年栄養状態の欠陥から増えている糖尿病や高血圧など生活習慣病のような疾病には、食品の栄養成分を配慮した食事療法が効を奏します。

病気というのは病原菌への抵抗力が弱まっているときに発症します。抗生物質は病原菌を殺すのは役立ちますが、これは回復のための補助手段であって、本来患者自身の自然治癒力を高めていくことが大切です。特に、がんや生活習慣病のように根本的に治す治療法が確立されていない病気では、日頃の栄養管理に主眼を置いた予防で、免疫系を高めていくことが重要かと思います。

— 米国ではこれまでのように医薬品だけの治療だけでなく、漢方薬やハーブなどによる経験医学的な治療法を見直す流れが起きているようですが、日本でもそうした方向にいくと思われますか

佐分利:そのように見て間違いないと思います。アメリカの大きな流れに沿って日本も動いて行くのではないかと思います。アメリカではこれまでのような西洋医学的処方では医療費がかかりすぎるということで、代替医療を探しています。インドのアーユルヴェーダ医学や日本の和漢医学、欧州のハーブ医学などいずれも草根木皮を用いたものですが、そうした経験医学の中に、新たな医療の方向を見出そうとしています。現実に米国立衛生研究所(NIH)でもそのために大幅な予算を組み、大々的な研究を行なっています。

またそうしたアメリカ政府の動きは市場にも反映されています。1994年に栄養補助食品教育法(DSHEA)が成立して、ビタミン、ハーブのラベル表示、販売の際の規制緩和が行なわれ、一般消費者も代替療法の恩恵に浴しています。今ではスーパーでも手軽にハーブ製品が買えるようになっています。痴呆症の改善作用で注目されているイチョウ葉なども人気です。またさまざまなビタミン・ミネラルも手軽に購入することができます。

— 食品の栄養成分による免疫強化とか、そうした免疫療法というものが今後の医療の中で、どのように位置づけられるとお考えですか

佐分利:免疫というのは私たちの体に侵入しようとする病原体に対し、白血球が排除しようとする防御機能ですが、理論的には今後強力な免疫療法が開発できると思います。ですが、そこまでいっていないのが実情です。食品に限らず、精神的、心理的なものも免疫強化にかなり影響します。効くかもしれないと思って免疫療法をやってみますとがんの経過にいい影響を与えることはあります。

免疫力を低下させる要因としてはストレス、加齢、大気汚染、偏った食生活などがあり、現代人は知らず知らずの間に免疫力を低下させています。栄養状態を良好にし、異物排除能力を高め、免疫能を高い状態に保っておくことが大切です。

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