超高齢化時代を迎え、アンチエイジングへの関心が高まっている。ネットなどでさまざまな健康情報が溢れる中、何が自身に最適な健康法なのか選択眼を持つことも同時に要求される時代になってきた。医療法人社団湖聖会 銀座医院の久保明氏に高齢化時代の「食」の摂り方や健康管理についてうかがった。
久保 明(くぼ あきら)
(略歴)
1979年慶応義塾大学医学部卒業。
1988年米国ワシントン州立大学医学部動脈硬化研究部門に留学。
「高輪メディカルクリニック」を設立し16年間院長を務め、現在は東海大学医学部付属東京病院を始め都内3ヶ所で診療を行う。
人の老化度を測る「健康寿命ドック」を開発し、その結果に基づいたソリューション(運動や栄養指導)を実践。生活習慣病の診療と予防医療・アンチエイジング医学の確立に注力。
サプリメントやスポーツ医学の世界最先端の情報と実践を駆使した講演や企業のアドバイザーとしても活動している。
常葉大学健康科学科 教授
東海大学医学部 非常勤教授(抗加齢ドック)
厚生労働省 薬事・食品衛生審議会専門委員
新潟薬科大学客員教授 内分泌・糖尿病専門医
日本抗加齢医学会評議員
日本総合検診学会審議員
日本臨床栄養協会理事
個々人に適った、パーソナライズの健康管理が大切
医療法人社団湖聖会 銀座医院 院長補佐・抗加齢センター長
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授
医学博士 久保明 氏
— 食品の機能性表示のことが話題になっていますが
久保:機能性表示については、消費者はあまり関心を持っていないのではないかと思います。僕は患者さんとも多く接しますが、関心ない方が多いです。
機能性表示に関心があるのは研究者と企業と官ですね。いろいろな刷新を行うことはいいことだと思いますが、臨床研究をずっとやってきた僕らの立場からすると、少し間をおいて接していきたい、というのが正直なところです。
機能性表示制度が実際に運用されると、長所や欠点も明らかになってくるでしょう。そうしたことに、あまり翻弄されたくないという思いもあります。
機能性表示については、国家戦略として位置付けられており、参照にしているのは米国の制度です。 身体の部位を含めた機能・構造がどうという研究はたくさんありますが、問題はそれを表に出せるかどうかということです。
日本ではすでにトクホという制度があります。健康食品の機能性表示は、それとは別の制度ということになりますが、これには3つ、担保しなければいけないものがあります。安全性、科学的根拠、適正表示です。これらは企業責任で、事前届け出制となります。
今後は食品表示法でいろいろな網がかけられていくと思いますが、僕らが関係しているのはシステマティック・レビュー(注1)です。このシステマティック・レビューやメタ解析(RCT)がはたして臨床の現場で意味があるかということです。
今年7月に、システマティック・レビューをどう活用するかという論文がJAMA (Journal of the American Medical Association)に出ています。これは画期的なもので、システマティック・レビューが金科玉条ではないことも留意されています。
僕らが診察するのは個人ですから、いくらたくさんのシステマティック・レビューを知っていても個人にどう当てはめるかということが重要になります。それがよくいわれるパーソナライズですが、そこにプロが介在する意味があるわけです。
この数年間私自身が関わってきた、社会保険福祉協会の健康食品素材のデータベース(HFS)がようやく国立栄研のものと肩を並べるくらいに育ってきました。
このデータベースは臨床的に見ても、最低RCTもしくはRCT以上のものが揃っているものを取り上げています。現在、掲載されている素材は300数十種です。おそらくこれも日本でスタンダードになると思います。
— 先生の「糖化」のご研究についてお聞かせください
久保:僕の臨床のスタートは生活習慣病でした。生活習慣病の中で一番多く接したのが糖尿病患者さんでしたが、恩師にあたる先生が日本で初めて疫学調査を行い、糖尿病の人たちは約10年早死するということを発表しました。
20年以上前の話ですが、では、なぜ早死するのか、というのが僕の研究のスタートでした。老化が進行するからで、当たり前のことですが、ではなぜ老化が進行するのかということです。
その原因が動脈硬化の悪化・進行で、その具体的な因子は何か、ということで血小板の研究をやって、そこから糖化に入りました。
糖化についてはメディアが活性酸素による酸化と対にして取り上げたことから、よく知られるようになりましたが、実は、かなり古くから研究されていました。
糖化についての一番の問題は、個人個人の糖化度がどれくらいか、ということです。血糖値やヘモグロビンAICについてはご存知の方もいますが糖化度については知らないですね。
この銀座医院のプレミアムドックでは、老化を進める活性酸素による障害も、糖化度も診ます。AGE(最終糖化産物)は受容体にくっつきますが、これが細胞内の転写因子というところと関係しています。そのため過剰な炎症や免疫反応を起こします。
— これから超高齢化時代で、アンチエイジングへの関心がさらに高まると思われますが
久保:アンチエイジングというのは、活性酸素や糖化だけでなく、たくさんの因子が関わっています。糖化度がよくても老化が進んでいる人がたくさんいます。また、その逆もあります。
高齢化時代のキーワードの一つは、ロコモティブ・シンドロームです。これを構成するものは、骨粗しょう症、変形性関節症、筋肉減少症(サルコペニア)です。
サルコペニアというのはこれまであまり注目されていませんでしたが、実はこれは高齢者における虚弱(フレイル)と呼ばれる状態と深く関連し、いわゆる栄養障害、カヘキシアとも関連しています。このフレイルをどうするかが、今非常に問題になっています。
— 高齢者の食事の摂り方については
久保:たんぱく質もしくはアミノ酸の摂取ということが一番重要です。加齢とともに腎機能は下がっていきます。その腎機能が下がった状態でどれくらいのたんぱく質を付加するか、ということです。
一時期、肉は食べるなといわれたことがありますが、あれはおかしなことで、Cell Metabolism(セルメタボリズム)というトップジャーナルに、40~45歳くらいまでは肉の過食は控えたほうがいい、ただ55とか60歳を過ぎたら肉はむしろ摂るべきである、という研究が出ています。
日本では、肉は食べるな、いや食べろといった論調になりがちですが、個々人の背景というものを踏まえ、サイエンスとして物事を捉えていくべきと考えます。
つまり、高齢者の食事については、たんぱく質の摂り方は年齢で変えましょう、ということです。糖については糖化に気をつけること。脂質については今までむやみに行われてきた脂質制限というものが本当にそうなのか、ということが今問題になっています。
サプリメントについては、自分に一番何があっているか、ということを老化度や血中ビタミン濃度などのサイエンスとして捉えたうえで、摂るべきだと思いますが、今は、そうしたことが行われていません。
— 個々人で食事やサプリメントの摂り方も当然違ってくるということですね
久保:銀座医院のプレミアムドックでは、個々人の活性酸素のレベル、糖化のレベル、血中のビタミンC・Eの濃度、それから自律神経についても調べることができます。
— これからの統合医療のあり方についてどのようにお考えですか
久保:僕は、1996年に自分のクリニックを高輪で開業した時から、マッサージ、運動、栄養、メンタル、などのそれぞれのプロと連携して、患者さんに統合的なアプローチを行ってきました。
その中でできたエイジングのドックが、東海大に認められて東海大の抗加齢ドックの教授を2006年から今年までさせていただきました。
また、運動療法の導入ということで介入もしましたが、やはり難しかったです。最後の統計解析で論文化しないと意味がありませんが、そこまで行きませんでした。自分のやってきた独創性とかユニークさは自分でも納得していますが、限界も痛切に感じています。
僕はエイジングのチェックはできますが、それに対するソリューション、解決法を示さなければいけないと思っています。この銀座医院ではプレミアムケアと呼んでいますが、個人のQOLや寿命がどこまで変わったのかというのを提示しています。それがサイエンスです。
これからはネットも含め、メディアの役割が非常に大きくなると思います。ただ、さまざまな情報が混在していますので、それが一流の研究・臨床の雑誌に載っているものかなど、情報を選別していく必要があります。
注1:文献をくまなく調査し、ランダム化比較試験(RCT)のような質の高い研究のデータを、出版バイアスのようなデータの偏りを限りなく除き、分析を行うこと(ウィキペディアより)