2024年2月19日(月)〜3月4日(月)オンラインにて、食品開発展プレゼンフォートナイト2024冬が開催された。ここでは(一財)生産開発科学研究所による「アスタキサンチンその研究史、自然界での機能、注目される生理活性」を取り上げる。
NPO法人日本抗加齢協会 理学農学博士 辻智子 同志社大学アンチエイジングリサーチセンター 礒崎晴吾
オーストリッチとはダチョウのことである。ダチョウは現存する鳥類の中で世界一大きな鳥であり、世界一大きい卵から生まれる。成鳥は体長2m以上、体重も120kgを超えるがその大きさになるまでの成長速度がとにかく早いというのが大きな特徴の一つだという。卵が孵化するまでの期間は42日、生後3ヶ月くらいまでは生存が難しい期間であるが、3ヶ月を過ぎると安定成長期に入り、病気のリスクはほとんどなく、12ヶ月で120kgを超える成鳥になるという。オーストリッチの平均寿命は約40年と長く、メスは30年以上毎年数十個の卵を産むことができる。しかも草食動物であるため飼育しやすい。このような背景からオーストリッチ飼育に世界から注目が集まっていて、さらにオーストリッチミートのニーズも少しずつ高まっているという。実際「タンパク質クライシス」の問題が盛んに議論されているが、現代社会では少ない飼料と少ない環境負荷でより多くの肉が確保できる家畜が求められている。現時点で環境負荷が高いと問題視されるのが「牛(牛肉)」で、特に牛のゲップやオナラから生じるメタンガスは地球温暖化の原因となっていることが指摘され続けている。オーストリッチは腸が約20メートルもあり、飼料をじっくり無駄なく消化するため糞尿にはメタンガスが含まれないだけでなく、ほとんど臭いもないという。少量の飼料で短期間で成長し(飼育コストが低く、簡単)、糞尿の問題もなく、免疫力が高いので病気になりにくく、寒暖差にも強く、繁殖力が高いオーストリッチは、牛・豚・鶏の飼育と比べても明らかなメリットが多く、まさに持続可能な家畜として世界から注目されているそうだ。
オーストリッチの原産国はアフリカだが、アフリカでも野生から現在は飼育動物となり、オーストリッチの中でも価値がある部位として主に輸出されているのが、羽と皮である。羽にも静電気を起こさない高い機能性があり、古代エジプト時代から帽子やドレスなどファッションアイテムとして活用され、現代においも重宝されている。皮は牛革を超える丈夫さと柔らかさを兼ね備えながらも軽く、高級品として世界中のトップブランドで利用されている。羽や皮以外にも優れた機能があることが明らかにされてきたのはここ数年で、特に有名なのが「オーストリッチ抗体」「ダチョウ抗体マスク」だ。またオーストリッチは首が非常に長く、この長い首に1本の枝分かれしていない頸動脈が通っており、この頸動脈を使った「内径2mm長さ30cmの、心筋梗塞治療など臨床的にも利用できる小口径人工血管」が日本で開発され、この世界初の大動物移植は世界的な話題となった。
オーストリッチミートについては、日本ではまだあまり知られておらずスーパーなどで購入することもできないが、ヨーロッパではBSE問題のあたりから牛肉の代替品として広く食べられるようになっており、年間消費量は数万トンレベルだという。日本では高級レストランなどで用いられる程度で、年間消費量はまだ数100トン程度であるが、オーストリッチミートの美味しさと機能性は少しずつ話題になっているという。実際、オーストリッチミートを分析すると、他の肉には見られない特徴があることがわかる。具体的には「脂質が少ない」「低カロリー」「鉄分が豊富」「ビタミンB12が豊富」「グリシンなどの旨み成分が豊富」で、牛・豚・鶏肉それぞれのデメリットをカバーする、弱点がほとんどない赤身肉だと説明。脂身は少ないが、良質なタンパク質、鉄分、ミネラル、BCAAなどの必須アミノ酸が補え、また飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のバランスも良く、必須アミノ酸のオレイン酸やリノール酸も多く含まれるという。味にクセがなく臭いもないので「カツ」「叩き」「ステーキ」「刺身」など調理のバリエーションが豊富で、高級レストランでの取り扱いだけでなく「ふるさと納税の返礼品」としてもオーストリッチミートは人気品になっているそうだ。 オーストリッチミートの特徴から、女性、アスリート、シニア層(サルコペニア対策)と特に相性が良いと考えられ、「ベジタブルミート」という別名を持つことからも「ヘルシー」「サスティナブル」といったキーワードに敏感な層にもぴったりな食材ではないか、と提案。継続的なオーストリッチミートの摂取で、血中の成長ホルモン濃度がアップしたといった研究成果も出てきているので、今後も鶏肉との比較やアンチエイジング効果などを調査していきたいと話した。