2024年2月19日(月)〜3月4日(月)オンラインにて、食品開発展プレゼンフォートナイト2024冬が開催された。ここでは(一財)生産開発科学研究所による「アスタキサンチンその研究史、自然界での機能、注目される生理活性」を取り上げる。
魚肉蛋白質の機能性の特徴 関西大学 化学生命工学部 教授 福永 健治
四方を海で囲まれる日本では昔から魚介類の入手が容易で、魚介類が動物性食品として重要な役割を果たしてきた事は日本人の誰もが認める事実であるが、その魚介類の健康効果や有益性については、今や世界中でも広く知られるようになっている。特に喫緊の課題とされる「タンパク質クライシス」にも貢献できるのではないか、とSDGsの観点からも注目されている。そもそも魚介類が健康に良いのではないか、と知られるようになったきっかけは今から30年ほど前、1970年代半ばのグリーンランドイヌイットを調査したDyerberg(ダイアベルグ)の研究報告にある。この研究では、脂質摂取量が多いデンマーク人とイヌイットの比較をした場合、同じくらい脂質を摂取しているイヌイットを比較するとイヌイットの心疾患死亡率はデンマークの1/7程度で、食事調査を行なった結果、イヌイットの食事の主食は魚やアザラシといった魚介で脂質もn3系が多く含まれていることがわかった。この調査は脂質が多くても脂質の質が異なれば生活習慣病になりにくいという初めての調査で、この報告によって世界中が「畜産より魚介!できる限り魚介を食べよう」という認識に変わった、と福永氏。その後、世界中で多数の疫学調査、介入試験が行われるようになり、特に魚介類に豊富に含まれるEPAやDHAといったn-3系高度不飽和脂肪酸による中性脂肪低減作用、血小板凝集抑制作用、炎症抑制効果などが明らかにされ、魚介類の機能性はEPA・DHAに代表されるものだと考えられるようになっている、と解説。EPAやDHAの効果や機能性は確実なものでありインパクトも大きい。しかしいつの頃からか「魚食の効果=魚油」となり、「魚油」さえ「摂取すれば良いのか?」ということについてはほとんど見過ごされてきたのではないか、と福永氏は指摘。健康食品類にもEPA・DHAだけの効果を訴求しそれにより誤解を与える表現のものが多く、ホールフードとしての「魚」は見過ごされがちだ。私たちが魚介類を摂取するとき、それはタンパク質やミネラルなどさまざまな栄養成分を摂取していることを意味し、EPA・DHAを選択的に摂取しているわけではない。EPA・DHAにはコレステロール低下作用があるとされているが、血液中の総コレステロール濃度についてはEPA・DHAを含む魚油だけを食べた時は濃度が下がる時もあれば下がらない時もあり、福永氏らの研究グループでは「EPA・DHAだけでは血中総コレステロール低下作用はなく、むしろ魚介類摂取によるコレステロール低下作用は、魚肉タンパク質によるもの」と考えている、と話す。
現在、魚肉に関する研究を進めている福永氏らのグループであるが、魚肉の機能性に関する研究は2010年ごろから少しずつ増えてきている状況で、まだまだ論文数や調査数が圧倒的に足りてないという。魚肉の機能性や健康作用については、動物試験でも結果が出てきていて、例えば牛肉・豚肉・鶏肉・魚肉のそれぞれを食べさせた時に血中総コレステロールがどのように変化するかを調べた研究でも、魚肉たんぱくを食べたグループしか総コレステロールの濃度低下は見られなかったと報告。ただし、そのメカニズムについてはまだまだブラックボックスで、魚肉タンパク質であっても他のタンパク質と同じで、消化の過程ではタンパク質として吸収されず、ペプチド、アミノ酸と分解されてから体内で利用されそのメカニズムは畜肉と変わらない。現時点で、福永氏らが検討しているのが魚肉摂取によって起こる「腸内細菌叢の変化」であるという。魚肉タンパク質を摂取したときに、腸内に存在する多数の腸内細菌がどのように変化するかを調べたところ、腸内では乳酸菌の一種であるラクトバチルスが増加することがわかってきたという。腸内でラクトバチルスが増えることは「脳腸相関」の研究から短期記憶力との関係も報告されているので、魚肉摂取によって腸内では魚肉由来のアミノ酸がプロバイオティクスのような働きをし、腸内細菌叢に影響を与え、短期記憶や認知機能低下予防などの効果を発揮している可能性があるのではないか、と解説。他にも魚肉摂取で腸内では腸の粘膜を構成するムチンの量が増加し、腸の炎症が抑制される効果も確認できており、腸管バリア機能の向上に貢献しているという。また、魚肉の研究をするにあたり、畜肉と比較して魚肉は消化率が優れていることや、魚肉の中でもかまぼこにしたものの方があらゆる効果が高いことなどもわかってきているという。現在これらの研究については論文にまとめている最中で、まだまだ解明されていない部分が多いと話す。
魚肉タンパクの研究はまだまだ数が少ないが、議論と研究を進めていくことで、サプリメントとして特定成分を摂取するだけでなく、食材として魚を食べることの重要性の認識が高まり、また他の畜肉との差別化にもつながるのではないかとまとめた。