2024年4月10(水)〜12日(金)、東京ビッグサイトにて「ファベックス2024」が開催された。今年は大きくファベックス、デザート&ベーカリー、お米未来の3つをテーマに有識者から業界団体、研究者などが集結し最新情報を発信。特に「お米」については、消費量は減少しつつも、「グルテンフリー」「健康志向」「利便性」といった新しい切り口によって、新たな需要が拡大している。ここでは「お米未来展」の特別セミナーより「玄米の機能性と加工利用について」を取り上げる。
新潟県農業総合研究所食品センター 専門研究員 太養寺 真
新潟県農業総合研究所食品センターでは、米や玄米の機能性と加工利用についてさまざまな研究開発を手掛けている。新潟県は日本屈指の米所であるが、昭和40〜50年あたりからは国内の米の消費量は少しずつ減少傾向に入り、米の新たな活用方法を検討し続けなければならなくなっている。研究スタート当初は例えば笹団子のような米を用いた和菓子や煎餅等の米加工食品の開発が主だったが、時代や生活様式の変化に合わせて日持ちのする食品や手軽な食品が望まれるようになり、米においても無菌包装の切り餅、無菌包装米飯、ライスヌードル、日持ちのする米食品の開発など、さまざまな加工食品を生み出すに至った、とこれまでの経緯を説明。近年は主食が「ごはん」でない家庭も増え、米の消費量の減少を食い止めることはなかなか難しい。そこで小麦粉と同等に利用できる米粉製粉技術の開発に力を入れているという。米粉は昔から和菓子に使われ、小麦と違ってアレルギーを起こさないので米粉パンや米粉ヌードルのニーズは高い。ただ、米粉は小麦粉と比べて粒子が大きいため水分量が多く、どうしてもベトっと仕上がり、扱いやすい粉ではない。しかし少しずつ改良を加えることで小麦粉に近い粉に近づいているという。他にも近年は高齢者向け米飯、病者向けパックごはん、災害時の米飯といったニーズも伸びていると解説。また近年は「健康」が市場のトレンドとなっているため「玄米の機能性」にも注目が集まっている。そこで玄米の機能性成分の測定や、玄米加工食品の成分測定、またそこから得られる知見のPR活動などにも着手していると説明。
よく知られるように玄米は白米と比較して非常に栄養価が高く、炭水化物とエネルギー以外は含まれるどの栄養素もほぼ倍以上、特に食物繊維やビタミン・ミネラルの含有量は白米の5倍近い。栄養面だけで考えると玄米は圧倒的に優位性が高くこのあたりはまだまだ周知させたいと話す。しかしながら、玄米は調理性や物性の面で消費者からの嗜好性は低い。そこで米粉と同じように玄米を微細化して粉体に加工し利用することで、原料素材として利用することを提案。米粉を作る際に「湿式」と「乾式」製法があり、この製法の違いによって粒径や澱粉損傷度に違いが出てくるが、湿式気流粉砕製法で作る玄米粉は澱粉損傷度が低いのでパンなどの加工に適し、乾式気流粉砕製法で作れば麺に最適といった活用方法もわかってきたと説明。さらにここ数年、全国の都道府県で活発に開発されているのが「新形質米」だ。新形質米とは低アミロース米、有色素米、高アミロース米、低グルテリン米、巨大胚芽米、香り米などで、新潟県では香り、巨大胚芽、低アミロース、有色素という特徴的な玄米特性を持つ9種類の「新形質米」が完成したと説明。特に有色素米の中でも「黒米」にはアントシアニン系のポリフェノールが豊富に含まれるため高い抗酸化作用が期待でき、赤い色味が強い「赤米」はタンニン系の色素成分が含まれるので血圧低下作用が期待できる。また「香り米」と言って見た目は普通のお米と変わらないのに、炊くと「ホップコーンのような香ばしい香り」「お釜で炊いた香り」など、栄養成分と香りを訴求できる新形質米についても紹介。玄米に多く含まれるγオリザノールには更年期障害や自律神経系の改善が期待される機能性、同じく玄米に多く含まれるフィチン酸にはキレート作用、米糠に多く含まれるフェルラ酸には認知症の緩和が期待される機能性などが確認されており、玄米をそのまま炊いて食べるだけでなく、玄米粉や玄米抽出成分を加工品に利用したり、玄米由来成分をサプリメントの原料などに展開することは可能で、加工することでより多くの成分を効果的に摂取できるメリットがあるとした。一方、玄米を炊いて食べる場合と加工利用した場合で栄養価や吸収率にどのような変化があるのかについてはこれから評価していく必要があるという。他にも子供でも楽しめるような玄米スナック、揚げ菓子や色や香りを楽しむ玄米粉由来の焼き菓子などの開発、玄米粉パン、玄米粉由来のライスペーパーやヌードル、手軽に食べられるPFCバランス のいい完全栄養食バーのようなものが作れないか検討しており、これらは市場ニーズもあるのではないかと説明。
米粉を使ったお弁当などで使うライスカップの開発は環境負荷を減らすことに役立つし、アレルギーを起こすリスクが極めて低い米由来の醤油、米マヨネーズの開発などにも着手しているという。米や玄米にはまだまだ新しい可能性があるので注目してほしいとまとめた。