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2024.9.24腸から考えるウェルビーイングを実現するための食事一般社団法人ウェルネスフード推進協会

2024年8月27日に一般社団法人ウェルネスフード推進協会が行ったセミナー「腸から考えるウェルビーイングを実現するための食事とは」が好評につき、9月24日から10月1日までアーカイブ配信された。人生100年時代、いかに自分らしく生き生きと人生を過ごすかが問われている。長期的な視点でヘルスケアを捉えたときに、重要なのが「腸の健康」だ。ここでは医薬基盤・健康・栄養研究所 医薬基盤研究所 副所長の國澤純氏の講演「腸から考えるウェルビーイングを実現するための食事」を取り上げる。

医薬基盤・健康・栄養研究所 医薬基盤研究所 副所長 ヘルス・メディカル微生物研究センター センター長 國澤純

食にはこれまで大きく3つの機能があるとされ、また求められてきた。3つの機能とは、1つ目が栄養、2つ目がおいしさ、そして3つ目が機能性だ。食の機能性研究はこの20年で驚くほど進化しているが、食の機能性には個人差があることがわかってきている。ここ数年で、食の個人差のメカニズムの解明も進んでいる。なぜなら、食に機能性があるのであれば、より個別に効果のある「個人個人に適した食事」である「精密栄養学」が求められていからだ。食品に含まれる栄養素にさまざまな機能性や効果が認められているのに、その効果が得られるかどうかについて個人差がある大きな理由は、現時点では「腸」にあると考えられている。腸は消化管としての役割だけでなく「免疫臓器」としての役割を果たしていることも知られるようになっているが、なぜ腸が免疫細胞として働いているのかといえば、食事によって蠕動運動が起こり、消化吸収が行われるプロセスの中で、免疫細胞が身体中に移動するからだ、と國澤氏は説明。つまり、腸活や腸内細菌に注目が集まるのは、腸内にある免疫細胞が全身に影響を与えているからだ、という。

國澤氏らの研究チームでは健常人の「腸」のデータを膨大に収集し分析している。多くの参加者から「私の腸内環境は問題がないか」と問われるが、それぞれの腸内細菌の模範的なバランスは存在しないという。例えば、有名な善玉菌の一つであるビフィズス菌であっても、その保有率の個人差は非常に大きく、どれくらい持っていれば問題ないと言える数値は今のところないという。ただ「良い腸内環境」とは「腸内細菌の多様性があること」と、國澤氏。善玉菌は良い菌ではあるが、それだけが異常に多く偏っているとさまざまな病気の原因となることもあるという。特定の菌だけが多く腸内に存在し、多様性が低い状態をディスバイオーシスといい、近年はディスバイオーシスと疾病の関係についての研究も進んできているという。腸内細菌の多様性、種類を増やすには、さまざまな食材をバランスよく食べるしかなく、特に腸内細菌の餌になる食物繊維をしっかり補うことが重要だと國澤氏。近年は、食物繊維が腸内で短鎖脂肪酸を作り出していることもわかっている。短鎖脂肪酸は腸のエネルギーになり、免疫機能を整え、病原菌や悪玉菌を減らし善玉菌を増やし、体に脂肪をつきにくくしてくれている役割も担っている。これまで食物繊維の摂取は1日20gが推奨されていたが、25gは必要ではないかと推奨量の変更も検討されているという。ところが一般的な日本人の食事には1日15g程度の食物繊維しか含まれておらず、現状多くの日本人は食物繊維不足に陥っていると考えて良いだろう。

食物繊維をとっても便秘が治らない人がいるが、これは、食物繊維からうまく短鎖脂肪酸が作られていないことが原因だと考えられるという。食物繊維から短鎖脂肪酸が作られるまでには3つのプロセスが必要で、まずは納豆菌や糖化菌などが食物繊維とくっついて糖になる必要があるという。次にこの糖が乳酸菌やビフィズス菌とくっついて、乳酸や酢酸が作られ、この乳酸や酢酸がプロピオン酸とくっついて酪酸などの短鎖脂肪酸が作られるというプロセスだ。第二ステップに進んだ時に、腸内にビフィズス菌が少ないと、糖だけが腸内に貯まってしまい太ってしまうこともあるという。次に酢酸が少ないとステップ3に行けない。つまり、食物繊維を摂る、プロバイオティクス、プレバイオティクスを考えるだけでは不十分で、「菌が何を作るのか」=「ポストバイオティクス」を考えることが大事だ、と説明。体の中に吸収されて影響を与えるのは菌ではなく菌が作り出す代謝物であり、腸内に菌がいるだけでは不十分で、腸内の菌によってどのような代謝物が作られ、その代謝物が体にどのような影響や効果を与えるのかを考える必要があるという。

近年は、食物繊維だけでなく主要食用油における脂肪酸組成、つまり油の質が体内でどのように代謝され、それが機能性を発揮して影響を与えているのかにも注目が集まっているという。例えば亜麻仁油を添加した餌で飼育したネズミは、他の油を摂取させたネズミよりも、下痢をしにくく、アレルギー反応が抑制するといった研究があることを紹介。亜麻仁油にはαリノレン酸が豊富に含まれるが、αリノレン酸を十分に摂取したネズミの腸内には大量のEPAが作られていて、しかもこのEPAがそのまま活性しているのではなく、17,18-EpETAという物質が豊富に産生され、これが下痢やアレルギーの抑制に働いていることが解明されているという。また、αリノレン酸が経口摂取によって腸内に運ばれ、腸内でEPAに代わり、17,18-EpETAが代謝されているが、皮膚では12-HEPEを合成しアレルギー性皮膚炎を抑制、乳児は母乳から摂取したアルファリノレン酸で14-HDPAを体内で合成し、乳児アレルギーを抑えているなど、同じ経口摂取の亜麻仁油でも部位により代謝が異なり、産生される代謝物が異なることもわかってきているという。もちろん、亜麻仁油をたくさんとってもこのような代謝物が作られない人もいる。これは、乳酸菌を摂っても効果が発揮できない人と同じメカニズムだ、と國澤氏。現在、効果が出ない人に対してどのようにすれば効果が期待できるかの研究が進められているが、発酵食品との組み合わせが有効だと示唆されているという。例えば、納豆のタレに機能性成分(αリノレン酸や食物繊維)を加えることで、各自が持っている腸内細菌の個人差を埋めることができないかといった研究があることを紹介した。 いずれにせよ食品や機能性成分が期待通りの効果を発揮するか、個別に予測できるシステムも構築中で、もし効果が得られない場合は代わりに食べるものを提案できる、そんなシステムが実装されることが望ましいと國澤氏。腸内環境から健康社会の実現に向けて、薬、ヘルスケア、食事のトータルの提案、それに伴う新しい栄養学の確立、そして一人一人のウエルビーイングの実現が期待されるとまとめた。

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