2024年11月27日(水)〜29日(金)、東京ビッグサイトにてウエルネス産業の展示会「Wellness Tokyo2024」が開催された。国内外のウエルネス企業約300社が出展し、来場者は3日間で約25000人を超え、健康・美容・コンディショニングの最先端を体感できる3日間となった。ここでは慶應義塾大学薬学部教授有田誠氏による健康系オイル研究の最前線「次世代オメガ3を考える~リン脂質タイプとSPM~」について取り上げる。
慶應義塾大学 薬学部 代謝生理化学講座 教授(学部長) 有田 誠
私たちが摂取する脂肪酸、特にオメガ脂肪酸は機能性が高いことがかねてより知られており、研究やその成果も多数報告されている。有田氏らの研究チームでは主にオメガ3などの脂質を私たちが食事から摂取した後、それが体内でどのように吸収され、どのように分布し、どこでどのような機能を果たすのか、その経路やメカニズムを明らかにするために、生体内の脂肪酸やリン脂質の代謝を網羅的かつ定量的に把握するためのメタボローム解析システムを構築している(脂質代謝物の包括的解析、リピドミクス)。その結果、オメガ3脂肪酸による炎症や代謝性疾患の抑制については脂肪酸の代謝バランスが重要であることや、オメガ3脂肪酸が体内で活性代謝物に変換され、それが抗炎症作用を発揮していることなどが解明されていると説明。具体的にはレゾルビン、プロテクチン、マレシン、リポキシンなどがオメガ3脂肪酸の代謝産物として知られるようになってきており、これらはいずれも生体内で低濃度であっても強い抗炎症作用を発揮することがわかっている。また、これらをまとめてSPM(Specialized Pro-resolving lipid Mediator)と呼ぶ、と説明した。
健康に良い油とされる「オメガ3脂肪酸」はDHAとEPAであるが、私たちの食生活は「オメガ6」の含有量が多いものが多く、オメガ3とオメガ6のバランスが崩れているのがさまざまな疾病の原因と関係しているのではないかと考えられている。オメガ3は主にサバやイワシなどの青魚、エゴマ油、亜麻仁油などに含まれるが、オメガ6は牛肉・豚肉・サラダ油・スナック菓子などに含まれ、本来の理想とされる摂取バランスはオメガ3とオメガ6が4:1とされるが、近年の日本人の食生活では1:10にもなっているのではないかと指摘されており、これによって糖尿病や動脈硬化、メタボリックシンドローム、アレルギー性疾患などが増えている可能性も示唆されている。
オメガ3が健康に良いとされたのは、もともと疫学調査の結果によるもので、グリーンランドのイヌイットや日本であれば久山町研究などのコホート研究によって、その健康効果が確認されており、さまざまな介入試験を経て、現在は純度の高いオメガ3は血液中の脂質などを改善する医薬品としても活用されている。これまで行われてきたオメガ3研究によれば、特にオメガ3がもつ抗炎症作用は有用性が高いことまではわかっていたが、オメガ3が機能を発揮するメカニズムについては不明点も多かった。ところが2000年代に入りメタボローム解析システムが確立され、またこの解析システムの精度が飛躍的に進化したことで、オメガ3が機能性を発揮するというのは、オメガ3の中でもEPAの代謝物が鍵となっていることが同定されている、と説明。オメガ3脂肪酸を摂取すると心不全になりにくくなる、というのは正確にはオメガ3脂肪酸を摂取することでできる代謝物によるもので、近年、体内の炎症をコントロールする代謝物をまとめて「SPM」と呼び、このSPMにも世界が注目している。具体的には、心不全を抑制するのはEPA由来の代謝産物18-HEPEで、18-HEPEはこれ自体が生理活性分子であると同時に、炎症部位では抗炎症代謝産物に変換されていく流れまで解明できていると解説。他にも、非アルコール性肝炎MASHについてはオメガ3とオメガ6のバランスを整えることで、肝臓内のマクロファージの過剰な活性を抑制することができ「オメガ3とオメガ6のバランスが大切」というのも、それぞれの代謝物の発現量が摂取バランスによって異なり、オメガ3を多く摂取しているときにのみ発現する代謝物SPMがあるからだ、と解説。
近年は、青魚の中にすでにSPMを含有しているものも確認できていて、そういった青魚を直接食べることの健康効果にも期待が集まると話す。一方、オメガ6系の脂質を過剰に摂取すると、代謝によってアラキドン酸になり、アラキドン酸が炎症や動脈硬化を引き起こすと考えられていた。確かにアラキドン酸の代謝物である「ロイコトリエン」や「プロスタグランジン」は炎症を引き起こす代謝物であるが、N3系とN6系のバランスが保たれていれば、アラキドン酸からもリポキシンなどの「抗炎症代謝物SPM」が産生されることも確認できているという。
DHAについては、私たちの体内で脳や網膜、精巣など特定の部位に大量に蓄積されているが、これらの臓器にはACSL6と呼ばれる酵素が多く発現している。ACSL6欠損マウスを作ると、運動機能異常や不妊が起こることが確認され、ACSL6が、脳や網膜、精巣でDH Aを含むリン脂質を調整する機能を有している、と考えられていると解説。 現在は、体内の臓器を解析し、その脂質のバランスを見るとその臓器の持ち主の性別・年齢・血液年齢・臓器年齢もわかるようになっていて、それだけ脂質と体内が密接に関係していることもわかってきている。オメガ3脂肪酸特有の代謝経路を「オメガ3脂肪酸カスケード」と呼ぶが、この解析をさらに深めることが、病態解明や治療法開発につながることが期待されている、とした。