高齢者人口が増え、ガン罹患率が高まる中、主治医以外の医師からセカンドオピニオンを求める患者サイドのニーズが高まっている。 セカンドオピニオンで、適切な治療法を患者にアドバイスするという九州中央病院の杉町病院長に医療現場での状況をうかがった。
杉町 圭蔵(すぎまち けいぞう)
公立学校共済組合 九州中央病院 病院長
< 略歴 >
1963年3月、九州大学医学部卒。1995年12月、九州大学医学部長(1999年11月任期満了)に就く。 2002年、公立学校共済組合 九州中央病院院長に就任、現在に至る。
< 受賞歴 >
・International Award(Association of Thoracic&Cardiovascular Surgery,1988,USA)
・International Visiting Professor Award(Society for Clinical Vascular Surgery,1993,USA)
・臓器不全対策推進功労者賞(厚生大臣、2000年)
・Special Award(International Association of Surgerons & Gastroenterologists,2001,Greece)
・顕彰(内視鏡医学研究振興財団、2003年)
・中山恒明賞(日本癌治療学会、2004年)
セカンドオピニオンで適切な医療をアドバイス
公立学校共済組合 九州中央病院
病院長 杉町 圭蔵 氏
— セカンドオピニオンについてお聞かせください
杉町: 患者さんが、主治医以外のドクターに診断や治療法についてのアドバイスを求めることがあります。それがセカンドオピニオンです。
セカンドオピニオンはアメリカで始まりました。 アメリカでは、医療費がどんどん上がり、保険会社がパンクしかねない状況で、 例えば、心臓手術を受けなければいけないと言われ、保険会社に申請したとします。
そうしますと、保険会社は、念のため他の病院にも(手術が必要かどうか)聞いてみてください、と言います。別の病院でも同じように 言われた時にはお金を出しますよ、というわけです。日本とはずいぶん違います。
— セカンドオピニオンをなぜ始められたのですか
杉町: こちらに、いろいろな患者さんから電話がかかってきますが、電話ですから相手の顔が見えません。 死ぬとか生きるとか話の内容が重くて、30分、1時間かかる場合があります。それで、電話での相談をお断りして、 こちらにいらしてください、ということで始めました。 平成15年10月から始めて1,000人近くの患者さんをみています。セカンドオピニオンは無料でおこなっています。
患者さんからは、(主治医の)説明がよくわからない、急がしそうで話を聞きにくい、今受けている治療がうまくいってない、頼りない、 などさまざまな不満の声を聞きます。
病気の内容は、75%から80%がガンです。他には、肝硬変や潰瘍性大腸炎、胃潰瘍などさまざまです。 早期ガンもありますが、進行している方がほとんどです。
セカンドオピニオンの相談に行って良かったかという質問に対しては、 「良かった」、「大変良かった」が9割くらいです。
これから、日本でもセカンドオピニオンを求める患者さんは多くなってくると思います。
言葉というのは非常に大事です。言葉で患者さんはずいぶん癒されます。私は誠心誠意、相手の立場になってお話しするようにしています。
— 全国から患者さんがみえるということですが、特に印象に残っている患者さんは
杉町:山形県の方で食道ガンと胃ガンと大腸ガンの3つのガンができていて、予約もなく来られた方がいます。 福岡県の方で肝臓ガンで予約なしでみえて、その時は私がいなくて、2回目も出張でいなくて、3回目にみえた時は、肝臓ガンの末期で、どうにもならない状態で、次の日に亡くなられたという方もいます。
50歳くらいの女性で、大腸ガンから肝臓に転移して、もう手術もできないといわれていたのですが、私共で手術をして元気になって帰られた方もいました。 誤診で、リンパ腺が腫れていて悪性リンパ腫ということでしたが、そうではなくて胃ガンからの転移だったという方もいました。
— テレビで先生が他の病院の医師と直接電話で話されていた場面がありましたが
杉町:他の病院で間違った治療を行っていれば、私はそれに対して指摘します。
— 病気の特徴が変わってきているようなことはありますか
杉町: 病気そのものが変わってきたということはありません。日本は高齢者社会になっています。65歳以上ですと、ガンが一番多いです。次が心臓です。65歳以上で亡くなる方の4割がガンで、3割が心臓です。あと1割5分が脳です。その次が肺炎です。
— 在宅医療についてはどのようにお考えですか
杉町:人はみな価値観が違いますから、一概にどうこうと言えません。一番大切なことは本人の考えに従って手を差し伸べることだと思います。
— 医の倫理が論議されたり、訴訟を恐れて医師志望を敬遠する若者が多くなったと聞きますが
杉町:医療というのは不確実なものです。同じ手術で助かる人もいれば、亡くなる人もいます。同じことを一生懸命やっても結果が正反対になることもあります。 ですから、訴訟が起こりやすいのかなと思いますが、誠心誠意対応すれば訴訟は起きないと思います。私はガンを中心に2,500人くらい手術をしていますが、患者さんからのクレームは一度もありません。
— 医療を受ける患者さんへ、心構えなど何かアドバイスを
杉町:医療というのはある程度痛みを伴うものです。検査にしても、患者さんに協力していただかないとだめです。胃カメラはイヤ、CT造影剤もイヤではだめです。それが必要な場合には少々の苦痛は我慢して協力していただきたいと思います。
— いわゆる機能性食品(健康食品)についてご意見をお聞かせ下さい
杉町:食べ物は人間が生きていく上で最も大切です。ガンの治療を助ける食品というものはあると思いますが、それは患者さんの元気をサポートするということであって、サプリメントでいかにもガンが治るというような言い方は良くないと思います。
— 食べ物で病気を防ぐといったことについては
杉町: 食事は楽しく美味しく食べることも大事ですが、その人に合った摂り方をすべきです。私は血圧は正常ですが、コレステロールが高くて、血糖が異常と正常の境界ですから、糖分は控えめにする、コレステロールも控えめにする、野菜をたくさん摂る、など自分の身体に合った食べ方をしています。
病院の食事についても、私自身が農家に行って無農薬や低農薬の新鮮な野菜を買ってきます。1週間に1,2回は、今日はこんな野菜を使っています、と患者さんにメッセージを出しています。