22020年12月4日(金)、web配信により東京農業大学総合研究所研究会・食の安全と安心部会3回シンポジウム「改正食品衛生法公布後のHACCP制度化の実際と食品業界の対応~2021年6月の本施行までに食品関連業者は何をすれば良いのか」が開催された。この中から五十君 靜信氏(東京農業大学応用生物科学部農芸化学科 教授)の講演を取り上げる。
HACCPに沿った衛生管理の実施を
食品衛生法の一部を改正する法律が平成30年6月13日に公布された。
改正の趣旨は「食の環境変化や国際化に対応し、食品の安全を確保する」ためで、これにより原則として全ての食品等の事業者に一般衛生管理に加え、HACCPに沿った衛生管理の実施が求められるようになる。
改正された法律の施行(現在移行措置期間)は、令和3年6月1日に完全施行となる。
改正により従来の営業許可34業種の整理・組み替えや営業届出制度の新設なども行われ、これらを自治体や業界団体が各食品取扱業者へ周知徹底、特にHACCP制度がフードチェーン全体で行われることが今まで以上に求められる。
HACCPによる衛生管理とは、食品事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握。
その上で、原材料から製品の出荷に至る全工程の中、それらの危害要因を除去または低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようというもの。
それぞれの事業者が従来の一律の基準で衛生管理するよりも、HACCPの観点から合理的で有効性が高い、と五十君氏。
「国際基準との整合性」を強く意識
今回の改定は「国際基準との整合性」についても強く意識している。
このことから、国内の衛生管理基準ついてもコーデックス委員会(FAQ/WHO合同食品規格委員会)やISO(国際標準化機構)といった国際規格をベースにした科学的根拠やリスク評価の高い手法で、衛生管理基準を設定する必要がある
コーデックスは微生物規格基準設定についてもHACCPの工程管理を前提にリスクマネージメントするように指示している。
病原微生物を対象とする検査によっては「食品の衛生検査によって食品中に病原微生物菌がいないことを証明すること」「国際整合性のある試験法やISO法を採用し、試験を行う環境についての管理が行われていること(=試験法の信頼性)」を高く求めている。
つまり、誰もが認める信頼性の高い試験法で病原菌が検出されないことが証明され、その試験は学問的な裏付けがあること。
試験の実施に当たっては検体採取が「サンプリングプラン(食品における微生物は食品中に均等に分布しているわけではないことを考慮した判断基準)」に従って行われることが望ましい、と五十君氏。
なお、食品からの微生物標準試験法については、国立医薬品食品衛生研究所のHPに試験方法の一覧が確認できるようになっている。
さらにその試験そのものの品質管理も求められている。具体的には内部制度管理、外部制度管理の二つの実施が必須となる。
食品における微生物検査は3種類
食品における微生物検査の種類には大きく3種類ある。
1、サーベイランス(問題の程度や実態調査)
2、工程管理のモニタリング(製造工程で矯正措置を取るか確認するため)
3、コンプライアンスのため(法令遵守の確認や、食中毒が発生した場合の原因特定のため)
いずれにせよ、食品の製造工程管理はHACCPを活用し制度化することで適切に運用できれば、病原微生物は理論的には十分コントロールできる。
ただし日々の検査には、第三者機関による妥当性が確認されている目的にあった迅速簡便法を活用すれば十分。
つまり、原則は国立医薬品食品衛生研究所(NIHSJ)が提示する標準試験法がコーデックスの求める試験法であり、国内の公定法を採用すべきである。
しかし、日々の検査は国際標準やISOに則った迅速で簡便で商品や目的に適合した試験を活用することで、コスト面も安全面も担保する方が良いのではないか、と五十君氏。
そのようにして検査を継続することでPDCAサイクルを回し、HACCPプランを改善していくのが望ましい、という。
工程管理の安全性を検証
食品の安全性を揺るがす病原微生物そのものをHACCPで管理し、細菌数などをモニタリングすることで、工程管理の安全性は検証できる。
しかしそのために日々採用する試験法はコストが安く迅速に結果が得られ、また誰が試験を行っても同様の結果が得られるものであることが望ましい。
またその試験については第三者機関による妥当性が確認できたものであることを活用すべきである。
そして全体の基準適合性の評価についてはISO17025取得の検査機関で、公定法による評価を受けたものであることが望ましい、と五十君氏はまとめた。