2020年11月16日~18日、東京ビッグサイトにて「食品開発展2020」が開催された。この中から、ユニアス国際特許事務所の講演「機能性食品のブランド戦略~商標弁理士のポイント解説」を取り上げる。
機能性食品、効果的なブランディングとは
大阪と東京で国際特許事務所を展開しているユニアス国際特許事務所。さまざまな商品の商標登録や特許取得の手伝いを行っている。
今回、ここ数年急激にニーズが高まっている機能性食品のブランディングを効果的に行う方法について紹介した。
ブランド戦略というと、どの企業もキャッチコピーや商品のネーミングに過集中する傾向にあるが、商品や市場を俯瞰して緻密なマーケティングを行うことが大切だという。
特に、多く失敗しがちなマーケティング手法が「すでに市場にある商品に類似させる」もの。
売れている物にすり寄せるより、オリジナリティを失くさず、むしろ強化させることがマーケティングにおいて最も重要なことではないかと解説。
マーケティング、まずターゲットを絞る
その一例として花王の「ヘルシア」について紹介。飲料メーカーがすでに多く乱立する中で、飲料メーカーではない花王が新たに飲料に挑戦するにあたり、勝算が見込めないという声も当初あった。しかしヘルシアは今では日本人であれば多くの人が知る飲料に成長している。
ヘルシアがマーケティングにおいて最初に行ったことは「segmentation=市場の細分化」。つまり「中年の男性」をターゲットにすることで、ここが他の飲料メーカーと大きく異なっていた。
次に「positioning=ポジションの明確化」。花王はトクホマークを取得し「体脂肪を減らす」という「男性により効果的に訴えるコピー」を商品に掲載した。
同じように「体脂肪を減らす」飲料といえば「ダイエット」と安易な言葉を使いたくなるが、これを使うとターゲットが女性に移る可能性が高い。
あくまで中年男性に市場を絞り、「ダイエット」でなく「体脂肪を減らす」を全面で使うというストーリーが成功の鍵となった。
「市場の細分化」「標的市場の決定」「ポジションの明確化」戦略
さらに販売経路についても、最初からドラックストアを除き、コンビニに大量陳列し訴求した。
ドラックストアの利用者は女性が多い、ドラックストアの商品は値崩れしやすい、そうした理由で行われたプロモーション戦略だった。
この戦略でスタートしたヘルシアは今では人気ブランドに成長し、ヘルシアスパークリングウォーターやヘルシア紅茶など、姉妹商品を横展開することにも成功、女性や若年層の人気も獲得しつつある。
このマーケティング戦略を「STP」=「segmentation(市場の細分化)」「Targeting(標的市場の決定)」「Positioning(ポジションの明確化)」 という。
こうしたことを厳密に行った上で、いわゆる4C「プロダクト・プレイス・プロモーション・プライス」戦略を行うのがブランド戦略として最も効果的である。
機能性表示食品、提案型コピーで差別化
現在、機能性表示食品は3400商品を突破し、差別化が日に日に難しくなっているという現状がある。
機能性表示食品の中でも、最もブランディングに成功したとされる商品の一つにファンケルの「えんきん」がある。この商品の優れた点は「手元のピント機能の調整」を前面に打ち出したところにある。
アントシアニンなどの機能性成分が目に効果的であることは、すでにある程度知られている。しかし、その成分の良さを打ち出すのではなく、エビデンスとともに「手元のピント機能の調整」というコピー(機能性)を前面に打ち出した。
こうしたことで「老眼を認めたくない世代、遠くと近くの切り替えが難しいだけ」という多くの人々に、不調の改善法の「提案型コピー」として成功した。現在「えんきん」は「スマホえんきん」もあり、横展開でも成功しつつある。
また、「すみやかな睡眠と睡眠の質の向上、起床時の爽快感」というコピーを前面に押し出した、睡眠系の機能性表示食品の一つである「グリナ」も同様である。
これまで睡眠薬を飲んでいた人の多くは「睡眠薬によってスムーズな眠りは得られるが、翌朝の寝起きが悪い、日中にすっきりしない」という共通の悩みを抱えていた。
「グリナ」はそこの改善を提案するコピーにより他社製品との差別化に成功した。
まだ表に出てきていないキーワードを掘り起こす
このように、商品の参入やマーケティングにおいて最も大切なことは、その分野でまだ表に出てきていないキーワードを掘り起こし、提案するような方法で、製品の独自性を全面に打ち出すことである。
またその独自性が顧客にとってメリットがあり、わかりやすいことも重要。それはすでに売れているものに寄せることでは得られない。
ターゲットが小さいと思われても、ヘルシアの事例のようにある程度ブランドが確立することで信頼を獲得し横展開につながることも多い。このような観点から、機能性表示食品の開発やマーケティングを行ってみてはどうかと提案した。