月経前症候群(PMS)の緩和など、女性特有の疾患で使用。ローマ時代には性欲の抑制に使われたという記録も
チェストベリー(Vitex agnus-castus)はクマツヅラ科の落葉植物で、バイオレット色の小さな花をつけます。
地中海沿岸国、中央アジアに原生し、亜熱帯地域で広く生育します。
古くから女性特有の病気に使われており、ギリシャ、ローマ時代には特に性欲の抑制に使われたという記録も残っています。
チェストベリーは、中世の修道士も同様の目的で使っていたことから、“Monk’s pepper”とも呼ばれています。
ドイツでは、1950年代頃からスタンダード化したものが使用され、ドイツのハーブ研究の権威であるEコミッションは女性特有の月経前症候群(PMS)や更年期障害、乳腺症などの症状軽減への使用について認めています。
チェストベリーには、イリドイド配糖体(agnoside、aucubin)、フラボノイド(casticin、kampferol、クエルセタグチン、vitexin8)、プロゲスチン(プロゲス テロン、ハイドロオキシプロゲステロン、テストステロン、エピテストステロンなど)、アルカロイド(viticin)、揮発油、必須脂肪酸(パルミチン酸、オレイン酸など)などが含まれています。
研究者は黄体ホルモンを分泌する脳下垂体を刺激することで、ホルモンの活動に影響を与えると考えています。
これにより、卵巣に信号を送り、プロゲステロンホルモンをさらに分泌させたり、また母乳分泌に関わる第2の脳下垂体ホルモン、プロラクチン(黄体刺激ホルモン)の上昇を抑えるとされています。
チェストベリーのPMSに対する有効性を示す研究は多く行われています。一般的なPMSは、生理周期の2週間ほど前のプロゲステロン分泌不足によって起ると考えられていますが、チェストベリーは、プロゲステロンとエストロゲンの割合を正常化させることで症状を軽減するといわれています。
13歳から62歳のPMS患者1,542人を対象に行った研究で、液体チェストベリーエキス、Agnolyt(40滴/日)を平均4ヶ月間与えたところ、33%は症状が完全に消え、57%は一部軽減と答え、全体的に見て、「有効性が良からかなり良い」の範囲を指摘した割合は71%あったといいます。
また、別の研究では、18歳から45歳のPMS患者127人にAgnolyt(乾燥チェストベリーエキス3.5~4.2mg入りカプセル1個/日)と、やはり女性特有疾患への有効性が報告されているビタミンB6(100mgを1日2回)を与え、その効果を比較。
被験者は、典型的症状6種でスコアが計測され、両グループ共同じ程度の緩和が見られたが、Clinical Global Impressions(CGI)スケールでの改善率は、チェストベリーグループが77%、ビタミンB6グループは66%だったことが分かりました。
不妊に対する有効性でも多くのプラスの成果が出ています。不妊患者96人にチェストベリーを調合したMastodynon(30滴、1日2回)か、プラセボのどちらかを3ヶ月間与え、1)妊娠、2)無月経患者に自然生理、3)黄体ホルモン値の改善――の点で達成度を調べたところ、ハーブグループ57.6%対プラセボグループ36.0%になったことが分かったといわれています。