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2019.4.17エビデンスのある低糖質パンの開発を~第22回ファベックス展セミナー

2019年4月17日~19日、東京ビッグサイトにて「第22回 ファベックス展」が開催された。同展示会セミナーより、中塚康雄氏(日本低糖質パン協会 理事長)の講演「低糖質ベーカリー市場の技術開発動向と将来展望を予測~穀物科学の国際会議からみえた「適度な糖質制限」と「栄養バランス」の重要性」を取り上げる。

低糖質パン、中高年やシニア層から注目

血糖値対策をしなければならない中高年やシニア層から「低糖質パン」が注目されている。

日本低糖質パン協会の代表理事を務める中塚氏は、自らが本当に美味しく安全だと断言できる低糖質パンを作りたいと、2013年から筑波大学附属病院病態栄養部の指導を受け、開発を進めている。

コストが高くなりがちな低糖質パンをより安価に、そして身近で、何より焼きたてで購入できるよう、低糖質パンの普及活動に務めるべく、2017年に「日本低糖質パン協会」を設立、健全な低糖質パンの普及に努めている。

中塚氏自身、現在も、つくば市にあるフラッグショップ「アンリエット」で低糖質パンの研究・開発・製造・販売を行っており、低糖質パンの需要の高まりを痛感しているという。

中塚氏がパン作りで大切にしていることは、単に美味しいパンではなく、材料にこだわり、焼きあがったパンだけでなく、そのパンが人の体内に入った時、栄養学的にどのような化学反応を起こすのか、そこまで追求することだという。

そのため、現在は筑波大学だけでなく城西大学薬学部、その他各種検査機関、分析機関、薬剤師や栄養士の協力や助言をいただきながら、「エビデンス」のあるパン作りと研究に日夜励んでいる。

低糖質パンのエビデンスを公開

また、その実績から得られたエビデンスや論文を発表することにも力を入れている。

例えば、毎年10月に開催されている「国際穀物科学協会」にも昨年参加し、そこで中塚氏は自ら開発した「マイルド低糖質パン」とそれによるエビデンスを紹介し好評を得たという。

パンが主食である英国では「健康パン」の需要が高い。英国だけでなく他の参加国においても「自分たちの住んでいる地域で安定的かつ安価に入手できる穀物や穀物粉を極力ホールフードの形で摂取し、主食であるパンから多様な食物繊維やミネラルを摂取すること」を大切にしていることが感じられたという。

そして「できるだけホールフード、ブラン、全粒粉」の形で摂取することが望ましいという考え方が定着しているため、日本よりもオーガニックに対する需要が自然と高い。

欧米では「セリアック病(小麦グルテン蛋白によって生じる腸の自己免疫疾患で欧米人には1%程度いる)」に悩む人がいる。

そのため、「グルテンフリー」の考え方もニーズが高く、書店などでも関連の書籍が多く並んでいる。

腸内細菌叢の健全な育成を

日本では昨今糖質制限が大ブームだが、糖質制限については「極端な糖質制限を長期間行うことは健康被害を招く」というのが、多くの専門家による一致した見解である。

そこで糖質は「適量」を摂取し、同時にビタミン・ミネラル・食物繊維が豊富な食材を一緒に摂取することが血糖値や糖質コントロールに効果的であることがよく知られるようになってきている。

特にパン食の場合、糖質過多になりがちだが、パンそのものから食物繊維とミネラルを同時に摂取するように意識すれば、効率的かつ効果的な糖質コントロールにつながる。

そのため、食物繊維を多く含むパン、特に水溶性食物繊維をパンからしっかり摂取することは血糖値のコントロールに役立つだけでなく、腸内細菌叢の健全な育成につながり、免疫力の向上にもつながる、と中塚氏。

低糖質パン、血糖値が上昇しにくい

低糖質パンの開発に着手した直後は、「糖質オフ」「低糖質」にこだわった。そして、可食部100gあたり糖質5gという低糖質パンを開発することに成功した。

そのパンを摂取した後の体内動態を調べてみると、低糖質パンを摂取した後は確かに血糖値が上昇しにくいが、その分、昼食を摂った後の血糖値が上がりすぎてしまうという問題点が生じた。

そこで中塚氏は2016年から製パン材料を全て見直し、β-グルカン大麦粉を混ぜることで可食部100gあたりの糖質を10g以下にした「マイルド低糖質パン」の開発を成功させた。

このパンでさらなる食後血糖値上昇抑制効果や血糖値スパイク抑制効果、セカンドミール効果が得られた。

この「マイルド低糖質パン」は強力粉70%・大麦粉30%、さらにグルテン無添加で作ることで、低GIなだけでなく、食物繊維リッチで材料費も抑えられ、全粒粉100%のパンよりもふっくら美味しいパンに仕上がったという。

ヘルシーで機能性の高いパンの開発を

低糖質パンを開発するにあたり、15種類以上の穀物粉で試作を行なったが、現時点では日本であれば大麦粉が最も適していると考えているという。

しかしながら、穀物粉には地産地消のものも多く、地域によっては大麦粉よりも適した穀物粉がある可能性もある。

また、この低糖質パンのバリエーションとしてホエイパウダーを添加することでよりヘルシーで機能性の高いパンができる可能性もある。

年齢を重ねると、今までの食事では血糖値や血圧が維持できなくなるが、それでも美味しいパンを食べたいという人は少なくない。

「糖質制限を取り入れたいが、パンを食べたい人」「乳製品や卵にアレルギーがある人」「塩分摂取をコントロールしている人」「安心できる原材料かどうかにこだわりがある人」「マーガリンやショートニングの使用に疑問がある人」にもマイルド低糖質パンはお薦めできる。

マイルド低糖質パンのレシピやパンから得られた研究開発成果を、志を同じとする「パン仲間」と共有し、一人でも多くの人に健康に良い、体に良いパンを届けられたら、と中塚氏はまとめた。

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