2019年6月29日(土)、日本医師会館にて「第155回日本医学会シンポジウム 超高齢社会における医療の取り組み-ロコモ・フレイル・サルコペニア」が開催された。この中から、金丸 和富氏(東京都健康長寿医療センター脳卒中科部長)の講演「高齢者の認知症と現状の展望」を取り上げる。
認知症患者、2025年には700万人を突破
東京都健康長寿医療センターには物忘れ外来がある。同外来は精神科と神経内科が合同で担当しており、平成29年度の初診者数は844名であった。
初診の患者さんには問診の後、必要に応じてMMSE、HDS-Rなどの神経心理検査、さらに必要があれば頭部CT、血液検査などを行う。
また症状によっては、MRIやSPECT、脳脊髄液バイオマーカー(tau、ptau、アミロイドβ42、HVA、5-HIAA)、あるいはPET検査(FDG-PET、アミロイドPET)などの検査を行い、認知症の早期発見・早期治療を行う。
認知症疾患の鑑別、その初期対応、行動や心理状態、さらに身体的合併症への対応などにも取り組み、医療相談、地域の保険医療、介護関係者との連携も深めることで、認知症の予防から早期発見、認知症患者のリハビリやケアまでを包括的に進めているという。
認知症を完治させる治療法はまだ確立されていない。そのため、予防への取り組みや早期発見が何より大切だが、認知症患者は増加の一途を辿っており、2025年には700万人を突破すると予測されている。
アルツハイマー病、脳内のアミロイドβ蓄積が要因
認知症の中でも最も多いアルツハイマー型については、アミロイドβ42というタンパク質が脳内に凝集することが原因とされている。
こうしたアミロイドβを除去する医薬品もあるが、それを投与したところで認知症からの回復が認められないことも報告されている。
脳の萎縮の改善により、認知機能の回復が認められているが、アミロイドβについては、蓄積してから除去する医薬品より蓄積する前から働きかけるものが求められている。
また、アミロイドβが蓄積した後にさらに沈着し、脳の神経細胞を障害するタウタンパク質の除去に関わる医薬品の研究も進められている。
認知症、さまざまな疾病で罹患リスク高まる
こうしたアミロイドβやタウタンパク質を標的とした治療が確立されるためにもできるだけ早期発見、できれば発症前診断が可能になることが求められる。
最新の検査では脳脊髄液のバイオマーカーやPET検査で早期発見を行う施設が増えているが、いずれも健康診断レベルで使われることはまだなく、現在、血液検査で可能なバイオマーカーの開発も急務とされている。
認知症はさまざまな疾病によっても罹患リスクが高まることがわかっているため、疾病予防こそ、認知症の予防に効果的であるといえる。
例えば、脳卒中の予防は脳血管性認知症の予防に直結する。アルツハイマー型やレビー小体型認知症の場合は糖尿病を予防することが非常に有効だ。
血圧や糖尿病、認知機能の低下と関連
他にも、動脈硬化や生活習慣病全般の予防はアミロイドβの蓄積予防に有効である。血圧についても、特に高齢者の場合、夜間高血圧や血圧変動が大きいことが認知症のリスクを高めることがわかってきている。
しかしながら、高齢者において血圧をコントロールしすぎると、血流が低下して逆に認知機能が低下する可能性もあるため、血圧の治療も注意しながら行う必要がある。
糖尿病によってインスリン抵抗性が悪くなると脳内にタウタンパク質が蓄積しやすくなることもわかっている。その一方で、インスリン抵抗性を改善することで、タウタンパク質の蓄積が改善されるという報告もある。
そのため、糖尿病の治療だけでなく若いうちからインスリンのコントロールを意識した食生活を習慣化させることが大切となる。
また脂質異常症が起こると、特に女性においては認知症のリスクが高まる。そのため、中年期以降の女性の痩せすぎや太りすぎには注意が必要となる。
最近わかってきたことに「認知症と腎臓病」の関連がある。そうなると透析によって認知症の予防や改善が目指せる可能性もある。
脳を刺激する生活を心掛ける
疾病予防と同時に、脳機能そのものを高めていく必要がある。「認知症になりにくい脳づくり」を心掛けることが大切である。
脳は可塑性をもつ臓器である。そのため、年齢を重ねるほどに新しいことに挑戦し、反応性を高め、柔軟な脳を維持しておくことが何よりも大切。
運動、料理、音楽、学問、どんなことでも脳は応えてくれる。脳を刺激する生活は、さまざまな疾病の予防にもつながる。
認知症の予防・先制医療・治療・介護などを円滑に行うための社会を構築するのは難題であるが、一人ひとりの予防への意識と取り組みこそ最も重要で効果的であると言えるのではないか、とした。