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2019.7.9遺伝子情報に基づいた食事・運動療法の時代に~スポルテックセミナー

2019年7月9日~11日、東京ビッグサイト青海会場にて「スポルテック」が開催された。同展示会セミナーより、斎藤 利氏(㈱グリスタ)の講演「遺伝子市場の現在地と遺伝子(体質)情報のトレーニング・栄養指導への応用」を取り上げる。

遺伝子情報を有効活用する

日本は欧米諸国に比べて遺伝子ビジネスが遅れているとされるが、ここ数年遺伝子の話題やニュースを耳にすることが増えている。

例えば、最近は中国で「エイズに感染しない遺伝子を組み込んだ双子の赤ちゃん」を誕生させることに成功し、倫理的な問題が盛んに議論されている。

他にも、コーヒーが嫌いになりやすい遺伝子、アスリートの肉離れに関与する遺伝子なども次々と発見され報告されている。また、持久力に関する遺伝子は、欧米人とアジア人で真逆であることなどもわかってきている。

そもそも遺伝子は「人間の設計図」といわれ、私たちの体型、体質だけでなく、お酒の強さや病気の傾向なども遺伝子が深く関係している。

同じトレーニングをしても結果が違う、同じ減量をしても効果が違う、同じものを食べても違う体型になる、同じ薬を飲んでも効果が異なる。

これらはすべて一人ひとりの持つ遺伝子が異なるからであり、遺伝子情報を有効活用することがあらゆる面において有効だと考えられるようになってきている。

2014年以降、世界的に遺伝子市場が拡大

もちろん遺伝子ですべてが決まるわけではなく、生活習慣や環境の影響も大きい。

病気や怪我において、外傷はほぼ100%遺伝と関係はないが、多因子疾患(ガンや生活習慣病など)になると遺伝子が50%くらい、そして血友病やハンチントン病などは100%遺伝子が関与している。

運動やアスリートの分野においては、66%が遺伝子の影響を受け、34%がトレーニングや食事など後天的なもので成り立つとされている、と斎藤氏。

また、あらゆる競技において「男女差」という性差が存在するが、これについても遺伝子の関係でどうしても10%前後の性差がどの競技においても存在することがわかっているという。

遺伝子の研究については、2003年に「ヒトゲノムプロジェクト終了」が宣言された。しかしその時点で解明された遺伝子情報はわずか2~3%で、それ以降、遺伝子研究や遺伝子学は各国で盛んに進められてきた。

その結果、遺伝子そのものが身近になり、2014年頃からは世界各国で遺伝子検査のコストも下がり、世界的に遺伝子市場が拡大していった。

安価な検査キット、信憑性に欠ける

こ数年、日本でも「遺伝子検査キット」が販売されるようになった。㈱グリスタでも遺伝子ビジネスをスタートさせた当初は遺伝子検査キットをエンドユーザー(個人)に販売していたという。

しかし、これには大きな問題があったと斎藤氏。解析技術を数万円と安価にするほど、得られる情報は正確性に欠け、信憑性が乏しく、遺伝子検査で得られた結果を個人では活用することができなかった。

遺伝子について十分な知見・分析・エビデンスの構築がなければ有益な遺伝子情報にはならない。

市販された遺伝子検査キットで「あなたは洋梨型の肥満になりやすい」「あなたは○○がんになるリスクが○○%」といった診断をされたところで、消費者はどうしていいかわからず、せいぜいかかりつけの医師に相談するしかない。

しかし、医師も市販の安価な検査キットの結果を持参されても、どう対応していいかわからないというのが正直なところだ。

このような事態に、日本医師会では「洋梨、りんご、バナナ型に分類されるような市販の肥満3遺伝子については、科学的根拠が乏しい」「小売りの遺伝子検査には問題がある」といった見解を公式サイトで公表している。

米国では遺伝子検査キットの小売りが禁止

また、遺伝子ビジネスが進んでいるアメリカでは既に2008年の時点で、遺伝子情報差別禁止法が制定されている。これは遺伝子情報によって職業・保険加入などの選択肢を狭めてはいけない、というものである。

そして現在、米国では遺伝子検査キットの小売りが禁止されてしまったという。おそらく日本でも近い将来そうなるのではないか、と斎藤氏は予測する。

遺伝子情報はかなり身近になってきており、遺伝子解明も進んでいる。しかし遺伝子情報を誰がどのように活用するかが重要で、遺伝子をただ調べるだけでは意味がない。

例えば、オーダーメイドの医療などで活用されるのは理想的である。体質に合わせた治療や薬の処方、食事療法ができれば効果が上がることは十分期待できる。

遺伝子情報に基づいた食事・治療など当たり前の時代に

またスポーツの分野でもトレーナーが有効活用できれば、パフォーマンスだけでなく選手生命の向上にもつながる。

既に欧米のトップアスリートはそのようなトレーニングを行なっている。日本の遺伝子マーケットは遅れているため、まだまだブルーオーシャンである。

遺伝子(体質)を調べて、食事・治療・生活習慣・運動習慣・処方・睡眠などをパーソナライズすることはこれから日本でも当たり前の時代になるであろう、と斎藤氏。

それは専門家や企業などのプロが「情報提供」だけでなく「情報活用」するものであり、「パーソナライズなソリューションビジネス」が遺伝子ビジネスに求められる姿である。

そのため、さらに遺伝子情報を活用できる専門家の登場が望ましい、と斎藤氏はまとめた。

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