2019年10月2日(水)、有楽町朝日ホールにて「第2回 認知症と糖尿病・メタボ~人生100年時代、あなたは大丈夫?」が開催された。この中から二宮 利治氏(九州大学大学院医学研究院 衛星・公衆衛生学分野教授)の講演「コホート研究からみた認知症予防」を取り上げる。
認知症の有病率、90年代に増加
認知症の予防には、疫学研究から認知症の実態を把握し、危険および防御因子を明らかにすることが必要不可欠である。
二宮氏は福岡県久山町で50年以上行われている生活習慣病の疫学調査「久山町研究」を通して、認知症対策の解説を行った。
久山町研究は、1961年から約1万人を対象に実施、1985年から認知症調査が追加された。1992年、1998年、2005年、2012年には65歳以上の全住民を対象に認知症の有病率調査を行なった。
また1988年に久山町の循環器検診を受診した認知症状のない高齢者約1,000人を対象に、15~17年前向きに追跡した調査の成績を用い、認知症の危険因子と認知症発生の関係を検討した。
ちなみに久山町の住民の人口分布・職業構成・栄養摂取は日本全国の調査結果に類似する。
この調査から、認知症有病率の時代的推移を検討したところ、65歳以上の地域高齢者における認知症の有病率は、1985年から2012年にかけて6.7%から17.9%と有意に増加したことが認められた。
糖尿病と認知症との関連
アルツハイマー型と血管性認認知症の病型別では、アルツハイマー型の方が著しく増加していることも分かった。
また、認知症発症の危険因子については、糖尿病と認知症発症の検討において、糖尿病患者は、非糖尿病者に比べ、認知症を発症するリスクが1.8倍有意に高いことが確認された。
アルツハイマー型認知症は大脳の中でも特に海馬が萎縮する認知症だが、2012年の久山高齢者調査で頭部MRIを行い、かつ同年の循環器検診を受診した65歳以上の住民1,238人の成績を用いて、糖尿病の罹病期間と海馬の萎縮を検討した。
その結果、非糖尿病者と比べて糖尿病患者は罹病期間が長くなるとともに海馬容積が低下することが確認され、糖尿病と認知症の関係の一つに「海馬の萎縮の促進」があると二宮氏は指摘。
特に65歳以前に糖尿病に罹患すると、海馬の萎縮が進みやすいことも分かった。
さらに食後血糖レベル別にみた病型別認知症の発症リスクについて、糖尿病を発症してなくても、食後血糖値が上がりやすい人ほど認知症になりやすいことが示唆された。
運動習慣がある人、アルツハイマー発症リスクが少ない
また、その他の危険因子としては、中高年期の高血圧、喫煙、睡眠障害、歯の喪失、筋力低下、脳内炎症、遺伝的因子も認知症発症の大きな危険因子であることが分かった。
さらに週に1回でも運動習慣がある人は、運動習慣がない人に比べアルツハイマー型認知症発症リスクが40%少ないことが明らかになった。
また、歯の本数が20本以上ある60歳の人は19本以下、9本以下の人と比べ、明らかに認知症になりにくいことが確認され、歯の本数が少ない人ほど認知症リスクが高まることも示唆された。
歯の喪失により、食事量・肺活量が低下し、服薬状況も不良となる。これが引き金となり運動不足・低栄養などが起こり、筋力低下に伴いサルコペニアが生じ、引きこもりや抑うつ状態といった社会的フレイルが起こる。
すると認知機能の低下が生じ「フレイルサイクル」から抜け出せなくなり、要介護状態に陥りやすくなる。歯の健康維持は最も手軽な認知症予防の一つではないかと二宮氏は指摘する。
大豆や野菜、認知症のリスクを低下
一方、大豆製品や野菜を中心とした食習慣や定期的な運動習慣を有する人は認知症発症のリスクが有意に低いことも分かった。
認知症の有病率は時代とともに急増しているが、早期から血圧・血糖をコントロールし、喫煙習慣や睡眠障害を改善し、適切な栄養管理と運動の維持、高齢になってからも筋力や活動量を維持することで、認知症は十分予防できることが疫学調査からも明らかになっている。
認知症の予防は、他のさまざまな疾患(生活習慣病、特に糖尿病、サルコペニアなど)の予防にもつながる。健康長寿の実現に直結することは、簡単なことも多く含まれるので、できることから取り組んでほしい、と二宮氏はまとめた。