2021年2月20日(土)、web配信にて「第23回健康栄養シンポジウム」が開催された。この中から辻 典子氏(産業技術総合研究所 細胞分子工学研究部門主任研究員)の講演「乳酸菌と免疫、腸管免疫について」を取り上げる。
免疫力、20歳をピークに急激に低下
腸の中でも小腸に免疫細胞が多く集まっているため、免疫システムの中でも「小腸」環境が特に大切。小腸に主に存在する共生菌は「乳酸菌」であると、辻氏。
新生児はほぼ無菌状態で生まれてくるため免疫力が弱いが、成長する過程で腸内環境を育み、それ以外にもさまざまな要素が複雑に絡み合い免疫力や自然治癒力を獲得していく。
しかしこの免疫力は加齢・ストレス・不規則な生活・栄養の偏り・睡眠不足・激しい運動・感染症・海外渡航などが原因で低下し、特に20歳をピークに急激に低下していくことがわかっている。
70歳になるとピーク時の1/10にまで低下する人もいて(個人差がある)、免疫の低下とともに疾病のリスクが上がるのが一般的、と辻氏。
フードメディシン(食医)が再び脚光
新型コロナウイルスについて、なぜ一部の人だけが重症化するのか。
これは、個人の免疫応答能力の違いが大きいと考えられている。高齢者はリスクが高いとされるが、若い人では腸内環境などの関与も示唆されている。
腸管免疫細胞は腸内細菌や食品成分により刺激され、さまざまな代謝産物を産生する。それが免疫となって感染への抵抗性や抗炎症など、全身への影響を与えている。
現在はこの免疫計測プロトコールの標準化などが目標とされているが、免疫機能を活性し、腸内細菌叢を安定させる鍵が食にあることは間違いない。フードメディシン(食医)という考え方も、再び脚光を浴びている、と辻氏。
口腔から小腸の主要な常在細菌は乳酸菌で、腸管免疫に働きかけ、免疫の維持に役立つことがわかってきている。
免疫は自然免疫と獲得免疫の2つ
免疫は自然免疫と獲得免疫の2つに大きく分類される。自然免疫の受容体は細菌やウイルスの構造パターンを認識する。
生菌でも死菌でも免疫システムを作動させることができるが、無菌マウスなど腸内環境では適切な自然免疫の刺激を受けない個体の場合、細菌やウイルスが侵入してきた場合すぐに感染や炎症などが拡大する。
つまり、自然免疫の受容体を導入しておくことは、生理機能の改善や疾病予防の可能性があることを示唆している。
辻氏らの研究によると、乳酸菌には特有の2本鎖RNAが含まれ、これが樹状細胞のTLR3を刺激してインターフェロンβを産生誘導することを示唆しているという。
これは乳酸菌特有の効果であり、乳酸菌はそもそも存在していることで炎症を予防しているが、さらにインターフェロンβを産生する。
このことで、抗ウイルス機能、抗炎症機能によって腸炎を予防し、IL- 12の産生増強を通じてインターフェロンγ産生性T細胞の分化を促進し、防御機能を高める。
これは過半の乳酸菌で見られる効果であり、また乳酸菌が生菌でも死菌でも得られる効果だという。
小腸における自然免疫のシステムへの影響
現時点ではわかっていないことが多いが、もともと常在している小腸の常在乳酸菌と食品由来乳酸菌の相乗効果や、菌株ごとの特徴についても今後研究されていくだろう、と辻氏。
また、マウス試験だが、乳酸菌の経口投与で免疫機能が回復するといったデータや小腸の免疫機能の老化事象の改善といったデータも得られており、乳酸菌が免疫に対してできることは極めて大きい。
乳酸菌は私たちが普段から口にする身近な食品、特に発酵食品に多く含まれており、日本人は発酵食品の食文化で生きているため多様な腸内細菌叢を持っているとされている。
「食」と「医」の融合を目指した研究領域の確立や保健機能食品のニーズが高まっている。
小腸の常在菌である乳酸菌については、伝統的な発酵食品に含まれる乳酸菌の特徴も明らかにし、小腸における自然免疫のシステムへの影響をさらに解明することで、健康維持や疾病予防、さらに治療や診断などにおいても、更なる可能性が広がることが期待される、とした。