2021年6月9日(水)~11日(金)、東京ビッグサイト青海会場にて「ウエルネスライフジャパン2021」が開催された。この中から、田中良介氏(イノーバマーケットインサイト 日本カントリーマネージャー)の講演「ここまで来た!世界のプラントベース市場~最新動向を知る」を取り上げる。
日本の食マーケットの未来を予測
イノーバマーケットインサイト社はオランダに本社があり、世界90カ国で展開しているグローバルリサーチ会社である。
全世界に1000人以上のリサーチャーを要し、食のビックデータを蓄積していることで有名だ。毎年「フードトレンドベスト10」を25年にも渡り発表していることでもよく知られている。
日本支部では、マーケットリサーチのほかに、食品企業の海外展開支援や世界と日本をつなぐ食産業の発展に貢献する仕事を請け負っている。
年々、海外から日本のトレンドを知りたいというニーズが増えている。世界の食のトレンドを見ると、日本の数年後の姿といえる部分も多い。
世界トレンドの現状を知ることは、日本の食マーケットの未来予測に役立つ、と田中氏。
プラントベース市場の成長、世界で凄まじい勢い
現在、日本の人口は減少傾向にある。マーケットが縮小していくのであれば海外に出ていく必要がある。そのために海外のトレンドを知っておく必要がある。
そうした中、注目したいトレンドが「プラントベース」である。食品偽造や狂気牛病、遺伝子組み換えなどの問題で「ナチュラル」「オーガニック」「無添加」などのキーワードがトレンドになったのが10年前。
これと比較し、それが「個人の健康=ヘルシー」、さらに環境への配慮を伴う「サスティナブル」というトレンドに徐々に移行し、現在はそれが持続することを願うフェーズの「SDGs」というレベルに至っている。
自分の健康から家族、地域、そして地球の健康という視野の広がりを見せる中、代替肉や環境負荷がより少ない「プラントベース」がトレンドの中心となっている、と田中氏。
実際、プラントベース市場の成長は世界で凄まじい勢いで、日本では考えられないレベルだ。
ベジタリアン・ヴィーガン・プラントベースの3つで、どの言葉が一番好きかを聞くと、海外では圧倒的に「プラントベース」と答える人が増えている。
プラントベース市場、45%アップ
ベジタリアンやヴィーガンは一般の健康志向の人には重いが、プラントベースなら「ちょっと健康志向」というレベルで、2016~2020年で見ると市場は45%成長している、と田中氏。
プラントベースというと、日本では「擬似肉」とか「代替ミルク」などのイメージが強いが、欧米では「プラントベース」という市場が確立している。
ピザ、コーヒー、フィンガーフード、冷凍食品、贅沢スイーツなどに応用され、リーズナブルなものからプレミアムのものまで幅広い選択肢がある。
特にアメリカで人気があるのがチーズフリーのチーズソース(原材料はカリフラワーとヘンプ)、植物性ミルク(パイナップルとキャベツ原料)、乳製品を使わないミロ、などが人気。
他にもビーンズを原料としたディップやヴィーガンバーベキュー商品などが注目されている。
これらはいずれもベンチャー企業が仕掛け、大手が参入することでトレンドとなっている。
例えば、パイナップルとキャベツを原料としたミルクは従来であれば考えられなかったが、AIが最も「牛乳」に近い味をシュミレーションして作った。
プラントベース、健康的だからが54%
では一体、なぜ消費者はプラントベースを選ぶのか?
同社の調査によれば「1位:健康的だから(54%)」「2位:食のバラエティとして(35%))「3位:サスティナブル・地球環境を配慮して(32%)」「4位:味がいいから(19%)」と、ここにきて味の良さを感じる人が増えてきている。
一方で、「プラントベースを食べない人」に理由を聞くと「味や食感が好きではない」と答える人が32%、さらに「本当に健康に良いのか不安」と答える人が23%いる。
プラントベースに乗り出す企業はこの2つのポイントをしっかり考え乗り越える必要があるのではないか、と田中氏。
特にこの2つのポイントは日本でプラントベースがそこまで流行らない理由の参考になるかもしれない。
例えば、日本のプラントベース食の代表的な「味噌」や「納豆」「豆腐」「高野豆腐」などは味も美味しく、作りもシンプルで、過剰に加工されたものを選ぶより安心安全だ。
また、特定の信仰をしている人を除き、欧米の人たちもやはり食に「美味しさ」や「楽しみ」を求めているため、100%プラントベースが良いと考えている人は全体の25%程度で、ちょっとプラントベースといったレベル、つまりハイブリットを望んでいる人の方が多い(36%)。
つまり、日本では当たり前の豆腐を使ったハンバーグや玉ねぎが半分近く入ったハンバーグはまさに「ハイブリットプラントベース」といえる。
そのため世界は日本を気にしているし日本から海外に展開するのに十分な価値がある。
植物性プロテインが市場を牽引
プラントベースの原料としては植物性プロテインが市場を牽引している。
ただ、単純に原料がプラントベースであればいいということではなく、原材料のトレーサビリティができたり、アップサイクル(従来の廃棄部分の有効活用)などプラスアルファの付加価値を訴求しなければ生き残りは厳しくなっている。
また、製造するにあたり農薬や遺伝子組み換えの不要な海藻やそら豆などの原料も注目されている。
フードサービスとしてはバーガーキングやTGIフライデーなどがすでにプラントベースの商品展開をはじめているが、今年はマクドナルドも大きな仕掛けをしてくるのではないかと期待されている。
しかし、いずれもベジタリアンやヴィーガンに対応するレベルではなく、ハイブリットプラントベースがキーワードである。
また、朝食だけ、土日だけ、などプランドベースを持続可能なライフスタイルとして提案するのも一つではないか、と田中氏。
中国でのプラントベース市場の拡大が著しい
アジアでも日本を除きプラントベースのトレンドがあり、特に中国での市場拡大が著しい。
中国では積極的に健康的なものを選ぶ姿勢の「フレキシタリアン」をターゲットにした商品が増えている。
大豆やとうもろこしを原材料として積極的に活用しているだけでなく、魚もプラントベースでの開発を手がけている。
ただ、プラントベース拡大の一方で、賢くなっている消費者からは「プラントベースは健康的ではないのでは?」「培養肉は安全なのか?」「最先端技術のものを食べることは健康なのか?」といった声も上がっている。
特にプラントベースに反対する声は農畜産業のさまざまな団体から出ていて「チーズ」や「ミルク」という言葉をプラントベースに使わないで欲しいという要望や、また国によっては紛らわしい言葉の使用不可を法律で義務付ける動きも出てきている。
さらに、子どもたちに「肉」や「乳製品」をどのように定義し伝えていくのか、という議論も起こっている。
企業としては未来にどのような価値観を引き継いでいくのかも大事な課題であり、本当の意味でのサスティナブル、SDGsを訴えられる商品でなければ、プラントベースというだけでは評価できない時代にまで突入しているのではないか、とまとめた。