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2021.9.15栄養疫学に基づいた商品開発を~未来へのバイオ技術勉強会セミナー

2021年9月15日(水)、Web配信にて未来へのバイオ技術勉強会セミナーが開催された。この中から児林聡美氏(HERS M&S代表)の講演「食品産業の商品開発者に知って欲しい栄養疫学の重要性~情報の使い手・作り手としての心構え」を取り上げる。

「栄養疫学調査」という視点

機能性表示食品などの健康食品が市場を賑わせているが、私たちは商品の作り手としてあるいは情報の使い手として「栄養疫学」についてもう少し知っておく必要があるのではないか、と児林氏。

例えば多くの日本人、特に高齢者や、中高年層であっても生活習慣病の予備軍に該当する人は、日々の食事からなるべく減塩する必要があると考えている。

確かに減塩することは大切であるが「栄養疫学調査」の視点で考えると、実は問題が起こっている時に減塩することよりも重要なことがある。

栄養疫学によれば、若い時にどれくらいの食塩を摂取しているかで、30年後の血圧に大きな違いが出てくることが確認されている。

例えば、30代の成人が1日約7グラム程度の減塩を意識した食生活をしていると、30年後に高血圧になる可能性はかなり低く、さらに40年後にも血圧が異常になる(高血圧症)可能性は少ない。

全てのアルコール、高尿酸結症に影響

一方、現在30代であっても1日平均14グラム程度の食塩を摂取している場合は、30年後に平均の収縮期血圧が140mmHgを超え、高血圧の範囲になってしまう可能性が非常に高いことが確認できている。

血圧はどんな人でも基本的には1年ごとに上昇していく。「今の食塩摂取量が未来の健康(血圧)に影響与える」という疫学による事実を周知させることで、将来の高血圧症人口を減らすことができるのではないか、と児林氏。

また高尿酸結症についても、様々なメディアや商品広告により高尿酸結症を抑えるためにはアルコールの中でもプリン体が多く含まれるとされるビールをできるだけ控えるべきというイメージが一般的定着しつつある。

しかしお酒の種類にかかわらずどんなアルコールであっても高尿酸結症に影響することが疫学ではわかっている。本当に予防したいのであれば、全てのアルコールを控えるべきである。

プリン体と尿酸値の関係

特にプリン体と尿酸値の関係が指摘されるが、プリン体が体内で合成させる経路は非常に複雑である。

アルコール以外にも肉や魚のタンパク質からもプリン体は合成され、ビールなどのアルコールに含まれているプリン体は他の食品に含まれるプリン体よりも微量である。

ただし、アルコールは尿酸の合成を促進し、また尿酸の排泄を妨げる働きもあり、その意味でもアルコールが高尿酸結症のリスクを高めることは間違いない。

しかしアルコールやそれ以外の食品から含まれるプリン体だけが高尿酸結症や痛風の原因になるという短絡的な思い込みは「栄養疫学」を理解することで改善されるのではないか、と児林氏。

ちなみに食品に含まれるプリン体に気をつければ良いかというと、そう単純なものではない。プリン体は野菜にも豊富に含まれているが、野菜からは影響を受けないこともわかっている。

食情報は栄養疫学研究に基づくべき

個人の体重、特に肥満傾向にある人や運動量なども関係あるため、特に痛風予防について、プリン体ゼロとされる食品を選ぶより、ほどほどのお酒・偏りのないタンパク質の摂取(肉魚)、運動の方が効果はあるのではないか。

ちなみに疫学とは「ヒト集団で起こるのか?」「現実的に意味があるのか?」を追求する学問で、「栄養疫学研究」は「ヒト」において「どれくらいの量か」を決め、実社会で活用していく学問である。

あらゆる食情報はもっと栄養疫学研究に基づくべき、と児林氏。というのも、疫学研究と実験研究では結果に違いが出ることが多いからだ。

実験研究では細胞や動物を使うのに対し、疫学研究はあくまで「ヒト」を対象にしている。「ヒト」の場合、遺伝子・ 身体的特性・生活習慣・睡眠・考え方などあまりに個体差が多い。

「交路」と「平均への回帰」の影響


また意思もあれば生活もしていて、注目している変数以外に異なる要因があまりにも多すぎる。特に「交路」と「平均への回帰」という2つの影響を考えなければならない。

例えば「コレステロールが高い方が長生きする」というセンセーショナルな文言が週刊誌を賑わせたことがあったが、これも交路因子について考えなければならない。

確かにそのような報告もあるが、交路因子がないか詳しく冷静に研究すると、例えばコレステロールが高いのに長生きしていると報告している研究には女性が多いとか、研究スタート時に若い人が多いといった「交路因子」が見つかっている。

さらに研究すると血中コレステロールの組成も異なり、またこの調査事態が日本人に限定した研究や、男性・女性と性別で区切った研究もないため、正確には「はっきりした答えはない」というのが正しい結論である、と児林氏。

正しく伝え、理解することは難しい

しかし、このように正しく伝え、理解することは難しい。他にも、βカロテンを多く摂取すると肺がんリスクが高まる、という報告もよく知られている。

このことを結論付けた研究はそもそも疫学が無視されており、βカロテンの日常的な摂取量を無視したデザインで進められていた実験に過ぎず、βカロテンが肺がんリスクを高めるかどうかは、正確なところわからない。

また、「平均への回帰」も頭に入れておく必要がある。これは何かの数値を測定した時、1回の測定というのは必ずしも正確ではない。

例えば血圧や血糖値など、本来は正常値にある人でも、たまたま異常値になることはよくある。そのため2回目に測定した時は数値が良くなったり、いわゆる「平均値」に近づく傾向が高い。

疫学研究に基づく情報発信を

さまざまな食事指導が行われているが、本当にその介入による効果なのかを知るためには、平均への回帰を無視しない研究デザインを設計しなければならない。

機能性表示食品の人気が高くなっているのは「エビデンスベースド」という流行が後押ししている側面があるが、疫学の知識や研究に基づく情報発信にまでは至っていないものが多い。

「日本人の食事摂取基準」は5年ごとに改定されるエビデンスに基づいた情報の一つだが、ここで紹介されている栄養素は日常的に食べられているものであるため研究や基準値が設定しやすい。

機能性栄養は悪くないが、日常的に食べている栄養素を基準値内で過不足なく摂取することが、健康を維持する上で、一番エビデンスに基づいた食行動といえるのではないか、と児林氏はまとめた。

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