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2021.12.20五感栄養学、健康と長寿に向けて~国際おやつ研究会セミナー

2021年12月20日(月)、web配信にて国際おやつ(OYATSU)研究会「第8回食と心の健康~栄養神経科学から五感栄養学へ」が開催された。この中から、横越英彦氏(静岡県立大学 名誉教授)の講演「緑茶アミノ酸は脳の働きに影響するの?」を報告する。

正常な脳機能の維持が健康と長寿の鍵


近年、機能性表示食品や特定保健用食品が非常に多く普及している。

それらの健康表示の多くは体の健康を謳うものがほとんどで、例えば「お腹の調子を整える食品」「血圧が高めの方に適する食品」「コレステロールが高めの方に適する食品」「血糖値が気になる方に適する食品」などがある。

しかし高ストレス社会・超高齢化社会において、最も重要な健康課題はマインドにあり、正常な脳機能の維持が「人間らしく健康長寿」を全うする鍵となる。

実際に、ニュースでも人間関係のストレスや脳の異常などが原因で、食欲・記憶・睡眠・情動などに異変が生じ、躁鬱病、摂食障害、不眠症、いじめ、アルツハイマー病、パニック症候群などが急増している。

特に増えていると感じるのが高齢者による車の事故や、公共の場での無差別な殺人事件などで、これらは人間らしい健康長寿が損なわれた結果の一つといえよう、と横越氏。

食品に「抗ストレス」など新たな付加価値を

つまり食品には今や肉体の健康だけでなく、「抗ストレス」「リラックス」「癒し」「やすらぎ」「情動のコントロール」といった新たな付加価値が求められるようになっている。

これらの機能は「食べ物」と「脳」に関係があるかどうかについて考えた上でデザインされる必要がある。比較的最近まで、脳は高次機能を有し食品の影響は受けずに独自に働いているという考えもあった。

最近は、脳科学や栄養神経科学の研究が進み、脳は体の臓器の一つであり、いくつかの栄養素が脳の神経伝達物質に関与し、脳の神経伝達物質により行動に変化が生じることも分かってきている。

脳にとっての主要な栄養素としては、タンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラル、その他の食品成分としてはテアニンやカテキン、カカオなどがある。

特にアミノ酸のトリプトファンやチロシン、ヒスチジン、コリンは神経伝達物質にダイレクトに関わっていくことが解明されている。

「神経伝達物質」、食品成分に影響

例えばセロトニンの原料はアミノ酸のトリプトファンであることは一般的にも知られている。

ちなみに脳の神経伝達物質には「抑制神経伝達物質」と「興奮性神経伝達物質」がある。「抑制系」の代表はGABA、グリシンで、「興奮性」はグルタミン酸、アスパラギン酸。

いずれにせよ、脳神経伝達物質に働きかける食品成分の研究は「精神活動」の鍵となる可能性がある。

これまで色々な食品成分や栄養、ストレスによる脳内物質代謝、脳機能などへの影響を研究してきたが、脳機能の発現に重要な役割を果たす「神経伝達物質」は、比較的容易に食品成分により影響を受けている。

さらに、ある種の脳機能、例えば血圧や記憶や学習脳なども食品成分によって変動することが明らか、と横越氏。

緑茶成分「テアニン」の脳機能への影響

例えば朝食の有無と「集中力」の関係もよく知られる研究の一つで、朝食を食べている子どもや学生の方が集中力が高い傾向にあり、テストの点数なども高い傾向にあることはよく知られている。

最近は朝食に何を食べると良いかまで研究されており、朝食の内容がお茶漬けとステーキでは当然脳の神経物質への影響は異なり、特に40代以降は朝食で炭水化物過多になると集中力や注意力が低下するということも示唆されている。

このような研究が進む中で、心身のリラクゼーションに関与する成分として知られる緑茶成分「テアニン」の脳機能への影響について研究を重ねた、と横越氏。

テアニンとは緑茶の旨味成分として知られるアミノ酸の一種で、良いお茶ほどテアニンの含有量が多い。

テアニンが腸で吸収されるのかをマウスで調べたところ、投与濃度依存的にわずか10分でテアニンは血液や肝臓等に取り込まれることが確認された。

テアニン、脳内に取り込まれる


また、テアニンが脳関門を介して脳内に取り込まれるかを調べたところ、やはり投与濃度依存的に脳にも取り込まれることがわかった。

脳にテアニンが取り込まれたラットの脳の神経伝達物質の変化を確認したところ、ドーパミン放出量が増え、セロトニン量が減っていた。

さらに、脳波にα波がわずか20分で出て、40分もすると顕著に放出が促進されることも観察された。

また、イライラや集中力の欠如が問題となる女性特有の疾病の一つであるPMS(月経前症候群)についてテアニンが働きかけをしないか学生によるヒト試験を行った。

その結果、緑茶テアニンの摂取により、PMSによる精神的な愁訴だけでなく、むくみや下腹部の痛み、頭痛といった身体的症状にも顕著な改善が見られることが確認できた。

他にもマウスへのテアニンの摂取でトーパミンが放出され、集中力の向上、学習記憶能力の向上、高血圧低下などが確認された。

「テアニン」の機能性表示食品も急増

緑茶には「テアニン」の他にも、「カテキン」という機能性成分が豊富に含まれており、その機能性もよく知られている。

カテキンには「抗アレルギー作用」「抗炎症作用」「抗ウイルス作用」など身体に働きかける機能性が多い。

一方、テアニンには「ストレス軽減」「高血圧低下」「睡眠改善」「脳神経伝達物質の変動」など情動に働きかける機能性が多い。

これまでカテキン研究の方が進んでいるような印象があるが、緑茶のテアニンの「疲労回復」「ストレス解消」「記憶学習能力の向上」などにも注目が集まっており、テアニンを利用した機能性表示食品も急増している。

GABA、脳関門への作用は確認されていない

ちなみに、食品成分であるGABAも脳の神経伝達物質の一つで、脳に直接取り込まれるような印象があるが、実は脳の関門を突破することはまだ確認されていない。

GABAは血中や肝臓に取り込まれ、様々な機能性を発揮しているが、そのメカニズムについては今後の研究に期待される部分も多い。

食品は摂取後に体内で代謝されるが体内に影響を及ぼすだけではなく、脳の代謝や機能にも直接、あるいは間接的に影響を与えている。

しかも摂取する前から、美味しそうな見た目や香りなどで五感に訴え、体内での作用にも影響を与えている。

これを食品の二次機能と呼ぶが、五感に対する作用であるため、横越氏は「五感栄養学」と呼んでいるという。

「五感栄養学」により健康・長寿を考える

視覚に訴えかける色や盛り付け、聴覚に働きかけるジュージュー・パチパチ・コトコトといった音、食品を口に入れた時の味覚・触覚などは、食べ物が胃に入る前に起こっていて体内に影響を与えている。

食品や食事は私たちの気分や情動に大きく影響を与えていることは間違いない。現時点では五感に基づいた栄養学的な研究領域は存在していない。

それぞれの生理機能に関する研究が先行しているが、人間らしい健康・長寿を考えると「五感栄養学」という新たな視点で総合的に研究を進めることがこれからますます重要になるのではないかとまとめた。

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