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2022.1.20免疫を高める時代、「日本型食生活」をベースに~食育健康サミット2021セミナー

2022年1月20日(木)、web配信にて「食育健康サミット2021セミナー」が開催された。この中から、大塚礼氏(国立長寿医療研究センター老化疫学研究部 部長)の講演「免疫力を高める食事とこれからの栄養・食生活」を取り上げる。

リスクファクター「低栄養」の見直しを


大塚氏は「免疫を高める食事とは、健康長寿を叶える食事だ」と話す。日本では高齢化が進み、平均寿命の延伸は喜ばしいが、それに伴い新たに対処すべき社会的問題が増えているという。

多くの50代、60代といったプレシニアは将来の健康、特にフレイルや認知機能の低下を恐れ、健康寿命と平均寿命の間の約10年の「不健康寿命」をできるだけ短くしたいと考えている人が多くなっている。

40代や50代が要介護になる原因は圧倒的に「脳卒中」であるが、60代以降は「骨関節疾患」や「認知機能低下」による要介護が増え、これを防ぐ方法はないかと、さまざまな方面から研究が進められている。

骨関節疾患もその発症のきっかけとなる転倒リスクも、そして認知症のリスクも共通するリスクファクターに「低栄養」があり、食事を見直し大切にすることが一番の予防になるのではないか。

「日本型食生活」が推奨

国立長寿医療研究センターの老化に関する長期縦断疫学研究で、フレイルや認知症予防に効果的な食事についてはある程度結論が出ており、やはり「日本型食生活」は推奨できるのではないか、と大塚氏。

例えば認知機能の低下については、血液中のDHAの割合が高い人ほど認知機能の低下が低いことが確認されている。

脳の60%は脂質で構成されているが、他にも短鎖脂肪酸(乳製品)や中鎖脂肪酸(ココナッツミルク)にも認知機能の保護効果が認められてきている。

さらに脂質以外の成分では、緑茶や豆類にも認知機能の保護効果が確認されている。また、アミノ酸も大事だが、アミノ酸の中でも認知機能に保護に関係しているのは「リジン・フェニルアラニン・スレオニン・アラニン」あたり。

とはいえ、これらを単独で摂取している人ではなく、アミノ酸(タンパク質)としての摂取量が中等度以上の人において認知機能の低下リスクが低いことが確認されているという。

食の多様性、認知機能低下のリスクと関連

穀類については、好きな人も多いが、摂取が多いほど認知機能の低下リスクは上昇するという残念なデータが示されている。

しかしそれは「お米」に限らず、特に小麦ベースの炭水化物(うどん、そうめんなど)の摂取が多い人に見られる傾向で、これらの食材が認知機能を低下させているのではなく、うどんなどを食べると副菜が少なくなりがちなことが良くないのでは?、と大塚氏。

そこで「副菜の摂取量と認知機能の関連」についても調査したところ、やはり副菜を十分に摂取している人の方が認知機能低下リスクは低いこともデータとして出ている。

エネルギー摂取量が十分であっても副菜が十分に摂取できていないと「多様性スコア」が低下し、認知機能低下リスクが高くなる。

ちなみに、なぜ食の多様性が認知機能低下のリスクと関連するのかについては、副菜によって多種多様な栄養素が摂取できるだけでなく「自炊する、献立を考える、食材を用意する」といったすべての食事に関する行為が心身に良い影響を与えている可能性がある、と大塚氏。

認知症・フレイル予防に効果的な食事とは

さらに多様性が高い食事は海馬萎縮を抑制する可能性があることも最新の研究で報告されている。

他にも、認知機能の低下予防と食生活に関する研究結果として著名なのが、「久山町コホート研究(九州大学)」で、「マメ類や大豆製品、野菜、海藻類、乳類乳製品を多く含み米類は控えめな食事」。

また「大崎コホート(東北大学)」では「魚類、野菜類、キノコ類、海藻類、漬物、大豆製品、緑茶摂取を多く含む日本型食事」。そして「国立長寿医療研究センター」では「穀類だけでなく色々な食品から構成される食事」を推奨している。

次にフレイルと食生活の関係についても言及。フレイルとは加齢に伴う予備能力低下で回復力が低下した状態のことである。

しかし食生活の研究から「肉類や乳製品の摂取が多い人ほどフレイルリスクは低い、エネルギー摂取が多い人ほどフレイルは抑制されている」ことが確認できているという。

つまり、認知症予防は「穀類に加え、さまざまな食材を用いた栄養バランスの良い食事」が推奨され、フレイルの予防は「タンパク質や脂質摂取を解した十分なエネルギー摂取」が推奨される。

「日本型食生活」、腸内細菌叢のバランスが良い

認知症予防にもフレイル予防にも量と質の2つが満たされた食事を心がけてほしい、と大塚氏。いわゆる「日本型食生活」が良い例である。

つまり「主菜(肉・魚・豆腐、卵など)、副菜(野菜、海藻、きのこなど)、主食(米、めん、パンなど)、乳製品ドリンクや果物」で1日3食、それにプラスして果物や乳製品を加えると質と量が満たされて良い食事になる。

ちなみにこのような「日本型食生活」をしている人は腸内細菌叢のバランスもよく、腸内細菌の観点から見ても認知症リスクが低いという報告もある。

もちろん「日本食スコア」が高い人は、あらゆる世代で血清中のDHAが高い傾向にあり、DHAやEPAの摂取を意識しなくても高スコアが期待できる。

コロナウイルスがおさまらず、免疫機能をあげる食事への期待も高いが、何か1つの食べ物で免疫が上がるというものは今のところなく、やはり「日本型食生活」を例に多種多様で過不足ない栄養摂取を心がけるしかない、と大塚氏。

13品目を意図的に食べる

「日本型食生活」を実現させるために「日本食品成分表」に表示されている18品目から調味料などを除いた13品目をリストにして意図的に食べるという方法が推奨される。

13品目とは「穀類、芋類、豆類、種子類、緑黄色野菜、淡色野菜、果実、キノコ類、海藻類、魚介類、肉類、卵類、乳製品」で、1日の中で13品目が補えるように心がけて欲しい。

さらに、バランスや栄養、回数が整っていても「楽しく食べる」ということが欠けると、せっかくの栄養も損なわれてしまう、と大塚氏。

コロナによって外出の機会が制限され、外食や社交が減り、独居や孤食の問題は深刻化している。活動量が減っているため食事量が減って低栄養になるのも当然である。

平時にも社会的にサポートが必要な子どもたちや子育て世代、独居の高齢者がコロナによってますます悪影響を受けているため、それぞれの自助努力に加え地域の見守りやサポートはますます必要となる。

「食事」をより楽しい生活習慣に

食事については、これまではメタボ予防が健康寿命の延伸に役立つと考えられてきた。確かに中年期まではメタボ予防が重要課題であるが、高齢期には「ギアチェンジ」の考え方必要で「しっかり食べる」の時期のタイミングを見落とさないことが健康寿命の延伸に大切である。

ギアチェンジするタイミングは年齢ではなく個人差があるため、体重を日々測るなどし、個人個人で見極めて欲しい、と大塚氏。

食事には栄養以外の様々な効果があるため、その恩恵を余すことなく受け取れるように、買い物・調理・献立立案・コミュニケーション・五感への刺激など「食事」をより楽しい生活習慣の一つにしてほしいとまとめた。

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