2022年7月6日(水)、web配信によりウェルネス総合研究所オンラインセミナーが開催された。この中から、福田真嗣氏(㈱メタジェン代表取締役CEO)の講演「腸内環境からはじめる層別化時代のビジネスの可能性」を取り上げる。
腸内細菌たちの特徴は「運動性」
腸内環境の研究が昨今驚くべきスピードで進んでいる。人間の体内で特に大腸には最も多く菌が生息するが、この腸内細菌たちの特徴は「運動性」を持っていることだと福田氏は話す。
細菌は腸内に棲息するだけでいくらでも宿主から栄養素をもらうことができる。つまり生き延びることが最適な環境下にある。
しかし腸内細菌たちはただ人間たちから栄養素をもらって生き延びているだけではない。さまざまな栄養素をもらった後、「代謝物」を排出し、人々に多くの良い影響を与えている。そのことが近年明らかになり、周知されつつある。
MACsを分解できる腸内細菌を持つ人々
私たちが摂取する食品の中でも、腸内細菌が利用できる炭水化物群(食物繊維やオリゴ糖)で、腸内細菌にまで確実に届く炭水化物を「Microbiota-accessible carbohydrates(MACs)」と呼ぶ。近年このMACsによって腸のコンディショニングを整えることが必要とされるようになっている。
ただ、MACsを分解できる腸内細菌を持つ人と持たない人がいることもわかってきている。
MACsを分解できる腸内細菌を持つ人の場合、腸内細菌の代謝物である「短鎖脂肪酸(SCFA)」によって、免疫調整、アレルギー抑制、便秘改善、持久力の向上、抗肥満、感染症予防、花粉症予防、疲労軽減、肌質改善などが期待できる。
しかし、MACsを分解できる腸内細菌を持たない人の場合は、摂取した製品による食品機能の効果がほとんど得られないことも解明されつつある。
腸内細菌叢、鬱や認知症に関与
腸内細菌叢に個人差があることはこれまでも推測されてきたが、問題は「健康な人同士でも差があること」だ、と福田氏。
実際に、福田氏のチームは「健常者の成人」複数名の便を2年間追跡した研究を行ない、腸内細菌叢が健康な人でも一人ひとりの個人差が大きく、ざっくりと複数のタイプに分類することができるが、それでも誰一人として同じではないことがわかってきている。
しかも2年間の追跡調査で、各個人がもつタイプに大きな変動性はなく、ある程度その人の「体質」や「個性」に関与している可能性が高い、と福田氏。
「脳腸相関」という言葉が知られるようになっているが、腸内細菌叢が「うつ」や「認知症」にも関与する可能性が高いこともある程度解明されてきている。
「腸内環境と肌質」の関係
また、これまで便秘だと「肌の調子が悪くなる」という「体感」で語られることが多かった「腸内環境と肌質」の関係についても研究を行った。
マウスによる研究では、食物繊維の摂取量が多く、腸内細菌が作る短鎖脂肪酸が十分に作られると、短鎖脂肪酸によって肌の細胞の最外層であるケラチノサイトと呼ばれる部分の「分化」が促進することが解明された。
これによって肌の新陳代謝が高まり、いわゆる「バリア機能」が向上することで、外からの刺激に強くなり、炎症や肌荒れを起こしにくくなる、という結果が得られた。
サプリメントの効果、腸内細菌叢の個人差と関係
一方、食物繊維が不足し、短鎖脂肪酸が作られない腸内細菌叢のマウスでは、肌のバリア機能が向上せず、皮膚が薄く修復も遅れるため、アレルゲンなど外的な刺激によって炎症が惹起され、肌荒れが起こりやすいことが確認できた。
このように、自分がどのような腸内細菌叢を持っているかによって、食品やサプリメント、医薬品を摂取してもその効果は変わってしまう。これが「個人差」の原因ではないかと考えられるようになっている。
ダイエットにおいても同じことが言えるが、同じことをしても痩せる人と痩せない人がいるのは、腸内細菌叢の個体差による部分が大きいのではないか、と福田氏。
腸内細菌の特徴やタイプを各個人が把握
近い将来、腸内細菌の検査はより簡便化し、腸内細菌の特徴やタイプが各個人で把握できるようになるだろうと福田氏は予測する。
そうなると、これまで「良い」とされていた成分や医薬品が「自分に必要か必要ないか」を明確にすることができるため、よりパーソナライズされた製品が必要になってくる。
もちろん、日本人の腸内細菌叢のタイプも何種類くらいあるか概ね分ってきているため、どんな腸内環境タイプの人にも漏れがなくダブりもない、腸内環境タイプカバー率9割を超える混合素材を作ることも可能ではないか。
健康食品、機能性表示食品、医薬品の個人差をなくすのには腸内環境の層別化が鍵であることは間違いない。この分野の未来はまだまだ可能性が大いにあるまとめた。