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2022.12.5遺伝子組み換え・ゲノム編集食品のリスクコミュニケーションシンポジウム「食品安全の最新動向と抱える課題の解決に向けて」

NPO法人食の安全と安心を科学する会(SFSS )   理事長/獣医学博士 山崎 毅

そもそもリスクとは「将来の危うさ加減」のことを指す、と山崎氏。つまり将来のことなので不確実性を伴っているものだ。将来起こりうる健康的・経済的・価値や名誉の損失などを含む危険の「頻度」×「重篤度(深刻度)」でその大きさを計るものであり、許容可能なリスクが残っている状態でも、危険度が低ければ安全といえる。人への危害や損害が許容可能水準に抑えられていれば「安全」と定義できるため、ゼロリスクというものは存在しないと考えて良い。しかし「ゼロリスク神話」というものが存在するため、特に食の安全については人々は過剰に反応しがちだ。このリスクについて正しく理解してもらうことを「リスクコミュニケーション」ともいうが、リスクコミュニケーションにおいて大切なことは、「1、食品のリスク評価&リスク管理が綿密にできている」ということと「2、その健康リスクが消費者にとって許容範囲(安全)かどうか」をわかりやすく伝える必要がある。しかし不安や疑念を先に抱いている消費者にその2点を伝えることは容易ではない。例えば、「GMOs(遺伝子組み換え食品)は危険か?」という問いかけについて、2019年の11月に国内でノーベル賞受賞者のリチャード・ロバーツ氏が「150人のノーベル賞学者たちはGMOsを支持している」が「それでもあなたたちはGMOsが危険だと思うのか?」と問いかけた。このように世界の頭脳とも言い換えられるノーベル賞受賞者たちがGMOsを推進するのは「GMOsは危険だ」と煽っているさまざまな反GMOs団体が誤情報の拡散によって持続可能な社会のあり方を脅かしているからだ、と解説。

リスクコミュニケーションには3つの社会心理学的要因を補正する方法を使うと効果的であるが、その一つが①二者択一の原理を補正するリスコミだ、と説明。消費者が行動選択を行うときは「二者択一」になりがちだ。「遺伝子組換え」と「遺伝子組換えではない」と表示された2つの食品が並ぶと、ほとんどの人は直感的に「遺伝子組み換えは危険だ」と感じる認知バイアスが働いてしまう。実際は、「遺伝子組換え」が「非遺伝子組換え」と比較して健康リスクが大きいという科学的根拠はない。そこを先のノーベル賞学者の事例のように、冷静にリスクの大小を説明することで優しく不安を取り除くことが重要だ。GMOs以外にも、食品添加物の使用を恐れ殺菌料の使用が不十分だったことでO-157により食中毒で死者が出た事例や、加工肉の発がんリスクを恐れてフレイルで寝たきりになった事例、築地市場の豊洲移転問題など「比較的小さなリスクを回避することでさらに大きな被害に遭う」という「リスクのトレードオフ」の事例を挙げて説明。つまり、ゼロリスクはないので、冷静にリスクの大小を理解できるようコミュニケーションをとることが大切だとした。特にGMOsについては「遺伝子組換えでない」とあえて表示する商品が溢れているが、GMOsは人や動物には害がないと結論づけられているので、個人の価値観で「GMOs食品」を選択しないことは認めらえても、「非GMOs食品が安全だ」という売り方や、GMOsを使用する地域で奇形が多いなど根拠のないストーリーのでっちあげで社会的不安を煽り、利益を得ようとするグループなどは公正ではないことを知ってほしいと話す。

効果的なリスコミの手法として②未知性因子を補正する、という手法についても説明。例えば「福島県産の農作物や食品の放射能レベルは気にすべき健康リスクなのでしょうか?」という消費者からの問いについて、「全く心配する必要のない放射線レベルで、毎日摂取している通常食品からの被曝レベルと変わらず、安全です」と、毅然とした回答をすることが肝要だ、と説明。この「安全です」は「リスクは許容範囲です」という意味であるが、あえて「安全です」と言い切ることで「将来何が起こるかわからない」という未知性に対し、不安を煽らない、刺激しないことが可能となる。

そして3点目のリスコミの手法として③確証バイアスを補正する、という手法について説明。ネット社会・情報社会では「危険情報」ばかり集め「確証バイアス(先入観を肯定するために都合のよう情報ばかり集めてしまうこと)」に陥りやすい。例えば「ゲノム編集食品は発がん性の危険も」というニュースは、科学的には「虚偽」であるが、それを「虚偽」と理解してもらうために、ジャーナリストや研究者、弁護士らが「ファクトチェック・イニシアティブ」という団体を発足させ(SFSS)ており、先の「ゲノム編集食品は発がん性の危険も」というニュースに対しても「フェイクニュースレベル4」と団体として声明発表。その上で「遺伝子組換え」と「ゲノム編集」の違いを説明したり、安全性を説明するなどの努力を行なっていると解説。「認証バイアス」に陥った消費者は自分の信じた危険情報ばかりを集め深刻な状態に陥っているため説得するより科学的根拠を使って理解につなげるようなコミュニケーションを取るようにした方が効果的だと話した。 食品事業者は「安全第一」を基本としてリスク評価やリスク管理を綿密に行う必要があるが、安心とは社会全体で作り上げていくものであり、全ての消費者市民に「安全情報」を正しく開示していく使命と、消費者から寄せられる「不安」や「疑念」に対し、誠実に回答し、信頼を重ねていくことが社会全体の安心につながる。説得ではなく「理解」によるコミュニケーションを行なってほしいとまとめた。

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