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2023.4.17肌の健康と食品成分(公社)日本栄養・食糧学会 関東支部 第110回シンポジウム

2023年3月18日(土)、オンラインにて、(公社)日本栄養・食糧学会 関東支部 第110回シンポジウム「肌の健康と食品成分」が開催された。肌の健康と食品成分の研究における最前線について6人の専門家が講演を行なったが、ここではそのうちの基調講演「肌の健康と食品成分」(神戸大学名誉教授 市橋正光)を取り上げる。

神戸大学名誉教授 BTRアーツ銀座クリニック院長 市橋正光

肌(皮膚)のエイジングケアにますます注目が集まっている。「肌」はクッション・バリア・体温調節・受容体・皮膚呼吸などさまざまな機能を担っていて、肌の機能が低下すると、これらすべての機能も低下する。それは見た目の美しさに悪影響を与えるだけでなく、健康にも影響を与えてしまう。中でも肌のバリア機能は感染症の予防やアレルギーの発症などに密接に関係していることがわかっていて、他にも肌機能の低下がさまざまな疾病と関係していることが解明されつつある。また近年は肌を含む「見た目」が体の健康度合いと比例することが多数報告されており、若々しく見えることは見かけだけでなく肉体的に健康で長生きする秘訣であることもわかってきている。

肌が加齢とともに老化するのは「現象」として仕方がないことだと考えられているが、肌老化の原因は決して一つではなく、老化の様子やスピードの個人差も大きい。肌老化の原因として「プログラム説(老化遺伝子の存在)」「エラー蓄積説(DNAやタンパク質の構造変化が蓄積し、機能が低下する)」「テロメア消耗説(細胞分裂ごとにテロメアが短縮し細胞分裂能が消失する)」「フリーラジカル説(DNA、タンパク質、脂質、糖の酸化による形態異常と機能低下)」「ミトコンドリア機能説(加齢に伴うミトコンドリアの機能低下)」「肝細胞減少説」「免疫説」などがある。いずれにせよ加齢に伴ってこれらの要因が発動し、肌老化が進み、さらにそれを視覚でも捉えられるようになった時、我々は「肌老化」を自覚する。しかし肌老化は自覚する以前から密かに進行している。肌は「角層」「表皮」「基底層」「真皮」の4層から構成されるが、老化肌と若い肌(20歳くらいまで)でその組成は変わらない。ところが、表皮の部分の厚みが老化肌と若い肌では大きく異なり、老化肌の真皮の厚みは若い肌の半分以下となりさらに年齢を重ねるほどに薄くなっていく。

さて、肌老化のさまざまなスイッチを押す最大の要因が「紫外線」だと考えられている。紫外線Aは主に皮膚細胞で活性酸素を作り既存のメラニンに働きかけ、今あるシミを濃くしてしまう。また紫外線Bは皮膚の細胞遺伝子に変異を起こし、新しいシミを作る。一般的には20歳を過ぎたあたりから、それまで受けた紫外線の量に応じてシミが出現し出す。シミが多数生じる「色素性乾皮症」という病気があるが、これは生後6ヶ月〜12ヶ月であっても発症し、やはりこの病気も紫外線によって細胞遺伝子に起こった損傷が正しく治せない病気であることから、紫外線は健康な人であってもそうでない人にとっても肌の老化に大きな影響を与えることに間違いない。最新の研究では80歳までシミを作らずにいるためには、真夏の紫外線量で換算すると「1日3分まで」という報告もある、と説明。同じく視覚的に自覚できる肌老化現象として「シワ」があるが、シワも一般的に知られる原因の「乾燥」だけでなく真皮におけるDNAの損傷の影響が大きいと解説。また最近は紫外線と同様に肌老化を進める原因として「糖」に注目が集まっていて、紫外線は最終糖化産物であるAGEsの生成を早めることから、紫外線と糖のそれぞれに注意が必要だと解説。

肌の健康を保つ食品についてはこれまで多くの研究が行われているが、美容効果に限ると科学的に証明された食品は多くはない。しかし口から取り入れた食べ物が肌に影響を与えるメカニズムはわかってきている。そしてそれらの多くが「活性酸素の除去」に関わっていることも解明できている。他にも腸内細菌への影響、老化細胞の除去、DNAの修復に関与、など、食品が体内で消化吸収されることによってこれらのメカニズムが作動し、肌に良い影響を与えている。「活性酸素の除去」に関わる食品としてはカラフルな野菜と果物、ナッツ、種子、豆(イソフラボン)があり、ORAC(抗酸化能)を示す値が高いほど高い抗炎症効果が期待できるので、1日に3000〜5000ORAC/dayを摂取することが推奨されている。他にも香辛料や鮭、米糠、緑茶、ビタミン(B、C、E、P)、ミネラルなども抗肌老化に関する有効性が認められているし、サプリメント成分としてはコラーゲン、ヒアルロン酸、アスタキサンチンやコエンザイムQ10などの有用性が報告されている。また乳酸菌の中でもLB81には皮膚の弾力性や水分量の増加を促す機能があることが報告され、幅広い食品から肌に良い成分は発見されている。さらに市橋氏が研究開発に関わった牛の初乳から作られるGcMAFという成分が「慢性光線皮膚炎」やアトピー性皮膚炎といった難治性皮膚疾患に対し改善効果を示したことを報告。食品であっても有用性が高いものなら、新しい治療の選択肢になる。いずれにせよこれらの抗酸化食品を積極的に食べることは、天然のサンスクリーンを内側から補うことと同義で、直射日光をなるべく避けることと同じくらい重要だ。また食事を楽しむことそのものが精神の若さの維持や回復に重要である。肌老化予防について「これを食べておけば予防できる」と断定できるものは今のところないが、ポリフェノールが豊富に含まれる食品・食材、つまり「緑黄色野菜、ケフィア、植物の芽、アサイベリー、カシス、ブロッコリー、しゃけ、かに、玉ねぎ」などを積極的に食べて楽しむことが肌のアンチエイジングの実践になるとまとめた。

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