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2023.5.22食素材生薬による神経機能の活性化―基礎研究から臨床研究まで―ifia JAPAN2023 HFE JAPAN2023

2023年5月17日(水)〜19日(金)、東京ビッグサイトにてifia JAPAN2023 HFE JAPAN2023が開催された。今年は「お!見つかる」をテーマに効率的な生産が実現できる食品成分や、製品価値を向上させる原料、新たなビジネスチャンスや研究開発のきっかけなど、さまざまな「発見」となる食品素材、食品添加物、機能性成分などが一堂に集結。ここでは出展社プレゼンテーションから「【基調講演】食素材生薬による神経機能の活性化―基礎研究から臨床研究まで―」を取り上げる。

富山大学 和漢医薬学総合研究所 神経機能学領域 副所長/教授 東田 千尋

食薬区分の「非医」に区分されている生薬の、神経疾患に対する効果について研究を重ねている東田氏。まずはニクジュヨウエキスについて頚椎症性脊髄症に対する治療効果を、基礎研究と臨床研究を並走させ検討していることについて紹介。そしてサンヤクエキスについては、アルツハイマー型モデルマウスでの記憶障害改善効果とその分子メカニズムを解明し、さらに臨床研究を進めていると話す。それぞれの最新の知見について報告が行われた。

交通事故やスポーツなどで脊髄損傷が起こると運動と感覚の機能不全が起こる。治療は損傷が起こってすぐの「急性期」「亜急性期」「慢性期」の3段階でそれぞれ行われるが、特に慢性期になってしまうと治療効果が上がらず難治性となってしまう。そこで慢性期であっても改善を目指すための治療薬を模索している、と研究背景を語った。

慢性期の脊髄損傷は、骨格筋が使えなくなることで筋肉に萎縮が起こるため、健常者のように骨格筋が動くことで分泌される「マイオカイン」という生理活性物質が分泌されなくなってしまう。このことが慢性期の脊髄損傷が難治性になる理由ではないかと仮説を立てたと説明。そこで萎縮した骨格筋に働きかけ、萎縮を改善するだけでなく、骨格筋から何らかの神経活性化因子を分泌させるような画期的な薬物の発見を目指した。そこで125種類の生薬をスクリーニング。中国でサプリメントやエキスとして製品化されている「ニクジュヨウエキス」に含まれる主要機能性成分「アクテオサイド」にマイオカイン活性を見出したと説明。

損傷後慢性期に移行した脊髄損傷モデルマウスの萎縮した後ろ脚の骨格筋に、アクテオサイドを直接注射したところ、後ろ脚の運動機能が優位に改善したことを報告。また、アクテオサイドを経口投与することで、骨格筋の萎縮の回復、脊髄の中を走行する「軸索」の密度の増加、筋肉を支配する運動神経への軸索の伸長が見出されたという。さらに、アクテオサイド処置をすることで骨格筋から分泌されて中枢神経系へ移行する分子として、pyrvate kinase M2 (PKM2)を同定し、PKM2が、軸索伸展促進作用と、骨格筋増加作用を併せ持つ新しいマイオカイン(骨格筋から分泌される機能分子の総称)であることも初めて明らかにしたと説明。

ヒトに対してはロコモティブシンドロームで歩行機能が低下している人への臨床試験が完了しており、歩行機能のアップが確認されているほか、頚椎脊髄症で手足の痺れなどが生じている人への臨床研究を進めている最中だという。特にロコモについては筋力トレーニングやビタミンD、アミノ酸、グルコサミンなどの栄養療法が推奨されているが、完治する治療方法は確立されていない。そこで40〜80歳までの健常者にアクテオサイドを高濃度に含む「ニクジュヨウエキス」1日1包(1800mg)を12週間摂取してもらうランダム化二重盲検比較試験を行なったところ、筋肉量に有意な増加変化は見られなかったが、歩行機能が下がらずに維持されたことが確認できたという。

また認知症については、アミロイドβの減少を狙った薬物が開発されるが撤退が続く中で、生薬で効果が上がるものがないのかについて検討を続けているという。アルツハイマー型認知症で脳内に起こっている変化はβアミロイドの増加だけでなく、βアミロイドの増加による神経細胞軸索の変性があるが、これは40代などアルツハイマーが全く見られない健常な状態からすでに始まっていて、健康な時から軸索が縮まないようにすることが予防に貢献すると考えている、と話す。そこで萎縮の抑制や萎縮した軸索を伸ばす生薬についてスクリーニングを行ったところ漢方薬として知られる「山薬(サンヤク)」にその作用が見出せることが確認できたと報告。ちなみに山薬とは山芋や長芋の根を除いて乾燥させたものである。まずはアルツハイマー型マウスに20日間、山薬の活性成分である「ジオスゲニン」を投与したところ、記憶能力が有意に回復したことを確認。また、ジオスゲニンの摂取で海馬から前頭前野に伸びる軸索が回復しスパルクというタンパク質が発現することを確認し、このスパルク発現が認知機能改善に貢献していると作用機序も説明。山薬エキスをカプセル化して46歳以上の健康な人(アルツハイマーではない)を対象とした3週間のヒト臨床試験を行ったところ記憶力の改善効果が見られたと解説。山薬エキスを軽度のアルツハイマー型認知症の方を対象に用いた臨床試験も終了し、現在論文している最中だという。またジオスゲニンを含んだ脳機能に関する機能性表示食品も続々と登場している。

生薬には「病気になっても希望が持てる」「健康な人が予防や健康レベルを長く維持する」ことに役立つ可能性がまだまだ残されている。今後も適正な生薬の選定や生薬エキスの規格化などを進めていきたいと話した。

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