2024年10月9日(水)、食品表示問題ネットワーク(食品表示ネット)は、これまで消費者にわかりやすい食品表示の実現を目指して市民集会や消費者庁との意見公開を重ね、10月9日(水)にいよいよ正式スタートした。それを記念して日本協同組合連携機構の和泉真理氏より海外の食品表示に関する講演が行われた。
一般社団法人日本協同組合連携機構 客員研究員 和泉真理
日本の食品表示のあり方を考えるにあたり、ヨーロッパの食品表示がどうなっているのかを比較することは非常に有益であるが、和泉氏がこれまで見聞してきたヨーロッパの食品表示は一言で言えば「表示だらけ」で日本の食品表示よりもずっと複雑で情報が多い、という。ヨーロッパの食品生産者にとって「表示」とは「生産者の意思」そのものであると和泉氏。例えば「牛乳」のようなシンプルな食品であっても、商品の入っているパッケージの4面すべてに表示があるという。まず表面に商品名、ブランドロゴ、最大の特徴やメインとなる訴求が表示され、横面には成分表示、アレルギー表示など義務的な表示情報、さらに別の横面には容器のリサイクルやSDGsに関する取り組みの貢献について、裏面には原材料となる牛の飼料や生産者の思い、PR事項など、牛乳パックの底以外全ての面に表示がなされているのが普通だという。しかもEUの場合、複数言語で表示しているケースが多いのでその分文字量が多くなってしまう。アレルゲンの表示についても日本に比べてとても厳しく、表示しなければならない成分の数も多い。さらに日本では「トクホマーク」が有名であるが、このようなマークもあらゆる食品で数種類掲載されているという。マークには公的認証のものだけでなく、民間認証のものも多くあり、ヨーロッパでは民間認証の表示の人気や知名度が非常に高いという。特にフェアトレードや有機栽培に関する民間認証マークの人気が高く、これらの表示があるかどうかで商品の売れ行きが変わるほどだ、と説明。他にも地理的な表示(生産地を示す)や伝統食品かどうかの認証マークも人気が高いという。卵のようなシンプルな食品でも、例えば英国では卵一つ一つにスタンプが押されている。そのスタンプに掲載されている情報は、飼育方法、原産国、サルモネラワクチン処理済み、農場のコード番号、賞味期限などだ。
英国はEUから離脱しているが、食や食品表示に対するスタンスがそもそも他のEU加盟国とは異なっていたという。例えば、英国は遺伝子組み換えなども含め世界の食糧問題の解決に力を入れたい立場であったが、他のEU加盟諸国は、伝統食品であることや地域特有の食材であること、食の安全(家畜の成長ホルモン投与禁止)などを非常に重視している。英国を除くヨーロッパのほとんどの国(EU加盟国)は、「環境」と「健康」を最も重視して食品表示を考え、さらに「農業経営の悪化をどう救うか」も目下の課題として重点的に取り組んでいるという。具体的には温室ガスの削減、家畜牛の頭数の制限、牛肉の消費量の削減運動などに取り組んでいて、その一つとして2019年の2月に「欧州グリーンディール」が発表された。これは環境を守りながら持続可能な経済への移行を目指す、という取り組みで農業や食品関連企業だけでなくあらゆる産業とあらゆる業種で行われている運動であるが、食品分野では「農業の生態系と生物多様性の保護と再生」「農場から食卓へ戦略」「新しい持続的な食品システムの構築」などの目標が掲げられており、例えば「2030年までに農地の25%を有機農地に」という目標に対し、苦戦しながらも現在10%を超えたところまできているという。
このような行政の取り組みが功をなし、ヨーロッパではさまざまな認証マークが普及している。その多くが有機認証マークでありほとんどが民間認証であるが、内容が厳しいほど消費者に支持され購入につながる実態があると解説。特に動物福祉に対する認証は支持が高く、民間認証であっても消費者からの信頼度は高い。多くの民間認証(中でも有機や動物に関するもの)は、EUの公的認証よりも価値が高くなっていて、これは消費者の環境や健康に対する意識がどんどん高くなっていて、認証もより厳しくグレードアップを続けているからだと説明した。他にも「森林デューデリジェンス規則」について紹介。これはEUで販売、もしくは域内から輸出する対象品が森林破壊によって開発された農地でない「森林破壊フリー」を確認するデューディリジェンス(徹底的調査)の実施を企業に義務付けたものである。またグリーンディールの一環として、EU市場の全ての包装材を2030年までに再利用またはリサイクル可能にすることも目指していて、包装材に関する表示もより複雑になりつつあると説明。
またEUでは肥満率の高さ(17%)も課題になっているという。特に7~9歳の子供の肥満が深刻で、栄養表示だけでなく、一人一人が何を食べるべきかがわかるような表示のニーズが高まっているという。また培養肉や遺伝子組み換え、ゲノム食品といった新しい食品技術についてEU各国は基本的に反対姿勢が多いが、イギリスはペットフードについては培養肉を許可する動きがあり、ここについても新たな表示の必要性について話し合いがなされているという。
ヨーロッパの人々にとって、食品表示は非常に重要であり消費者は「頭で食べる」「選んで食べる」のが当たり前になりつつあるという。一方で、食品そのものはどんどん小さくなっていて(個食、単身世帯の増加など)、それに反比例するように表示するように求められている項目がどんどん増えている。 食品表示や規格は、生産者にとって差別化やPR手段でもあるが、貿易を阻害する原因になることもある。日本は世界の食品表示や規格、水準づくりの話し合いにこれからもっと積極的に参加することで、日本の食品が国際的に流通する機会を失わないようにする必要があるのではないか、同時に表示に関する消費者教育を進めていく必要があるのではないか、とまとめた。