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2024.10.15ゲノム編集食品最前線日本バイオ技術教育学会オンラインセミナー

2024年10月10日(木)、日本バイオ技術教育学会が主催するオンラインセミナー「ゲノム編集食品最前線」が開催された。2022年に日本発のゲノム編集食品が上市されたことで、日本は技術・規制の枠組み・消費者コミュニケーション・ゲノム編集などの場面で世界から注目をされている。ここでは世界初となるゲノム編集トマトを市場に送り出した筑波大学の江面浩氏の講演を取り上げる。

世界初、ゲノム編集トマトを送り出して 筑波大学 江面 浩

一言でゲノム編集技術と言ってもどんどん改良されており、現在はさまざまな編集技術が相次いで誕生している。ゲノム編集技術は2020年にノーベル化学賞を受賞したことで一躍有名になった。受賞した内容は「生物の遺伝情報を自由自在に書き換えることができる新たな手法としてのゲノム編集」で、ドイツ人エマニュエル・シャルパンティエ氏とアメリカのジェニファー・ダウドナ氏という2名の女性が受賞した。ゲノムと呼ばれる生物の遺伝情報の狙った部分だけを極めて正確に切断し、切断したところに別の遺伝情報を組み入れることができる「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)」と呼ばれるゲノム編集の画期的な手法を開発したことが評価されてのことだった。この「CRISPR-Cas9」はこれまでのゲノム編集に比べて簡単かつ効率が良いことが知られ、特に農業分野での活用が期待された。

ゲノム編集というと「怖い」という印象を持つ人が多いが、実はこれまでも農作物の改良にはさまざまな突然変異が利用されてきた、と江面氏。その変異は、自然突然変異もあれば人為的な突然変異もあるが、現在私たちが普段食べている農作物のほとんどが「突然変異の塊」と言っていいくらい、自然にも人為的にも突然変異が何度も起こった結果できているものと言える、と説明。農業分野におけるゲノム編集技術は突然変異を有用かつ効率的に作り出すための技術であり、たくさんの良質な農作物を手早く作るために、もはや不可欠な技術と言えるほど現代人のニーズがあるという。

たとえばトマト一つとっても「より日持ちがして(流通)」「より糖度が高く(美味しさ)」「より耐暑性があり(温暖化でも安定して生産できる)」「機能成分が豊富に含まれ(健康増進)」「栽培が簡単な」ものが求められている。しかもトマトは世界中で栽培されている作物で、すでにトマトの重要な遺伝子に関する情報や研究は多数ある状態で、ゲノム編集トマトに挑戦するのはハードルが低かったと江面氏。筑波大学は2万系統以上の変異誘発系統のトマトを所有しており、これは世界最大規模であるという。トマトはもともと、遺伝子に小さい変異が起こるだけでも性質が簡単に変化することが多数の研究からもわかっており、江面氏らのグループでは、もともと持っている遺伝子に小さな変異を加える、つまり「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)」のゲノム編集技術を使って品種改良を試みたという。「CRISPR-Cas9」の技術では、狙った部分を正確に切断することができるが、江面氏らのグループが行ったトマトの品種改良においては、切断部分に新しいものを加えず、切った部分同士を繋ぐ、という手法を採用したという。具体的には酵素遺伝子をカットすることで酵素活性が向上し、トマトのGABAの蓄積量が増加するというものだ。そのため、これは世界共通の認識であるが、食品表示において「遺伝子組み換え(GMO)」の扱いにはならないという。もとあるもの同士を繋ぐので「遺伝子組み換えとして扱わない(NON-GMO)トマト」として理解して良いのだ、と解説。現在内閣府が主導するゲノム編集技術食品のプロジェクトにおいてトマト以外には「可食部分増量の真鯛」「高成長のトラフグ」「ワキシーとうもろこし」「高成長ヒラメ」などがあるが、ゲノム編集技術を応用して作られている食品が市場に流通する場合、厚労省にゲノム編集の届出だけでなく、消費者庁、農水省、文部科学省などの許可も必要になるので、環境負荷が少なく安全性は極めて高いという認識で問題ない、と解説した。

このようにゲノム編集によって江面氏らのグループで開発した高GABAトマトであるが、2020年12月に市場に流通させるための一通りの手続きを完了させた後、実際どのようにこれを広めるかは最大の課題になったという。「ゲノム編集トマト」とネーミングすれば、「心配」「不安」という声は当然上がるので、スーパーなどの店頭に並べるのは難しい。そこで、ゲノム編集によって誕生した「高GABAトマト」の苗を家庭で育てる無償モニターを募集。応募は想定以上に多く5000件を超えたという。実際は4200件以上の家庭でこの高GABAトマトを家庭菜園してもらい、育てやすさや味などを確認してもらったという。するとモニター対象者の90%が「国の許可があれば受け入れる」と回答し、手応えを感じたという。日本では人口の50%が高血圧もしくはその予備軍とされ、その30%が治療を受けているとされるが、GABAは血圧上昇抑制成分として知られ、高血圧を食を通じて予防するのにも有効だ。現在このトマトは機能性表示食品としても届出ており、「シシリアンルージュ ハイギャバ」として「血圧を下げる」「ストレス緩和」「睡眠の質を高める」「肌の健康を守る」と表示されている。これまでのトマトであればこのような効能を得るためには大量のミニトマトを摂取する必要があったが、シシリアンルージュハイギャバであれば1/4(ミニトマト1つ)を摂取するだけで十分な量のGABAが摂取できるようになっているという。つまり「食で健康に」「野菜で健康に」が実現しやすくなっているのも利点ではないかと解説した。

現在、「CRISPR-Cas9」を用いたゲノム編集のトマト「シシリアンルージュハイギャバ」については、切断だけで、別の遺伝子の注入をしていないことから普通の品種改良と同等の扱いとなっており、「ゲノム編集」または「遺伝子組み換え」という表示は不要となっている。しかし表示のニーズがあることを考慮し、ラベルやマークは考案済みだという。 世界では褐変しにくいバナナ(フィリピン、米国、英国)、耐病性改良バナナ(英国)、焼いた時に発がん性物質の生成が少ない小麦(英国)、ビタミンD強化トマト(英国)、日持ち向上メロン(筑波大学)など、他にもゲノム編集作物の研究が進んでいる。最新のゲノム編集技術によって生まれる農作物は、遠い存在の得体のわからないものではなく、消費者が容易にアクセスできるものに変わってきているので、ぜひ注目してほしいと話した。

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