2026年2月25日(水)〜2月27日(金)、東京ビッグサイトにて「健康博覧会2026」が開催された。44年以上にわたり健康・美容産業のハブとして進化を続けてきた「健康博覧会」であるが、昨年の2025年は約3万人以上が来場し、今年も約460社の出展社と約3万6000人の来場が報告された。国内外の大手からスタートアップ、異業種まで多数の来場者が訪れる健康・美容・ウェルネス分野の国内最大級B to B展示会。ここで行われた出展社セミナーの一部を取り上げる。
(株)TNC マーケティングリサーチディレクター/グローバルフードアナリスト
澤村 建造 氏
今、日本食は単なる「ブーム」を超え、世界各国の食文化の中で「次世代のスタンダード」として羽ばたこうとしている。世界は日本食の何にトレンドを見出し、どこに価値を感じているのか。世界70カ国以上に住むリサーチャーネットワークを持つ株式会社TNCが最新の知見より解説を行った。
海外にこそヒントがある。世界を網羅する情報収集の仕組み
株式会社TNCは、世界中に600名以上存在する「日本人女性ネットワーク(ライフスタイル・リサーチャー)」を抱え、現地に在住する彼女たちから届けられる「生の一次情報」を編集し、トレンドの兆しをいち早くキャッチしている。さらに食のトレンドマガジン『フーディアル(FOODIAL)』の編集やそのデータを用い、AIを活用したトレンド分析も行っている。今回はそこから見える世界が日本食に注目する「5つのキーワード(理由)」を解説。
キーワード1:腸活(ガットヘルス)――伝統発酵食の再定義
1つ目のキーワードは「腸活」。腸内環境を整えることが全身の健康、さらには脳とも深く関わっている(脳腸相関)という認識は、今や世界共通の常識となりつつある。日本の伝統的な発酵食である「味噌」は、消化促進や免疫向上の効果が期待できるスーパーフードとして、欧米を中心に爆発的な人気を博している。そしてその使われ方は日本人の想像を超えている。アメリカやヨーロッパでは、味噌を単なる味噌汁の具材としてではなく、万能調味料として捉えている。例えば「味噌×メープル」のフレーバーを冠したビスケットが登場。また、アメリカでは「麹(Koji)」からインスピレーションを得たブランドが、チューブタイプの健康的な調味料として展開されている。サラダのドレッシング、肉のマリネ、サンドイッチのソースなど、現地の人々の食生活に合わせて「ローカライズ」されていることがヒットの最大の要因であると説明。長年、外国人が最も苦手とする食材の筆頭だった納豆も、腸活ブームにより注目度が急上昇。タンパク質が豊富でプロバイオティクス、コレステロール低下といったメリットが認知され、その弱点であった「ネバネバ」や「匂い」を克服する工夫が進んでいる。イギリスやオーストラリア、アメリカでは、納豆をフリーズドライ加工し「サクサクしたスナック」として販売するスタイルがヒットしている。インドネシアでもSNSを中心に「納豆チャレンジ」が流行し、現地の伝統食品「テンペ」との親和性も相まって、一時店頭から納豆が消えるほどの社会現象となったという。
「麹」にも注目が集まる。特にイギリスのシェフたちの間で、旨味を増し、肉や魚を柔らかくする「魔法の素材」として広まった。ヨーロッパでは、牛乳を使わない「植物性チーズ」の原料として麹が使われる事例も登場している。また、梅干しの酸味と塩味はイタリア料理などのソースとして「新しい隠し味」としてポテンシャルを見出されている。
キーワード2:マインドフル飲料――心身を整える飲料
2番目のキーワードは「マインドフル飲料」。コロナ禍を経てメンタルヘルスへの意識が高まる中、日本発の飲料が「心に効く」として注目されている。まずは抹茶。抹茶は今や世界中で「健康と美容のスーパーフード」として不動の地位を築いたといえる。免疫力強化だけでなく、ADHDやうつ症状の緩和といった、メンタル面への機能性が特に期待されている。中東ではピスタチオと合わせた伝統的なデザートフレーバーとして楽しまれ、フランスやオーストラリアでは抗酸化作用によるアンチエイジング飲料として愛されている。緑茶に含まれる「テアニン」のリラックス効果や、眠りの質を高める効果も、世界的な「睡眠課題」を背景に再評価されている。インドやインドネシアなどの大国でも、ノンカフェイン、ゼロカロリーという特徴を持つ「ほうじ茶」の香ばしさが支持され、「コーヒーに替わる飲料」として大手飲料メーカーによる展開が加速していると報告。
この数年で一気に広がったのが「柚子」だ。レモンやライムとは一線を画す独特の味わいと、心身を整えるイメージが欧米でも定着しつつある。ピエール・エルメなどのトップパティシエがスイーツに活用するだけでなく、柚子アイスクリームや、ヤギのチーズと合わせたコンフィ、さらには「柚子胡椒」に至るまで、その用途は多岐にわたる。
キーワード3:新スーパーフード――サステナブルな海藻の逆襲
3番目は「新スーパーフード」である。キヌアなどに続く新たな選択肢として、日本でお馴染みの食材がリストアップされている。その代表が海藻。海に囲まれた日本人にとって海藻は当たり前の食材だが、多くの国ではかつて「魚を獲る際の邪魔者(ゴミ)」として廃棄されていた。しかし今、海藻は「地球に優しいサステナブル食材」かつ「人間に必要な栄養素(ビタミン、食物繊維、タンパク質)が豊富な食材」として、劇的なパラダイムシフトが起きている。アメリカのロサンゼルスでは、高級セレブ御用達スーパーで、海藻(シーモス)を用いたカラフルなスムージーが1瓶約7,000円という高値で売られている。また、韓国のりはアメリカにおいてポテトチップスに代わる「ヘルシースナック」として爆発的な人気を誇り、韓国では海苔を「黒い半導体」と呼んで国を挙げて輸出に注力しているほどだ。
海藻はタンパク源としても注目され、チョコレートバーやプロテインバーに配合される事例も紹介。他にも和食を代表する「そば」は、グルテンフリー需要とルチンやマグネシウムの豊富さから各国でスナックとして広まりつつあるという。また、タイなどのアジア圏では「枝豆」がスーパーフードとして捉えられ、パンに塗るスプレッドクリームなどに加工されて販売されている。
キーワード4:代替の新素材――「旨味」「万能」による減塩革命
4番目は「代替の新素材」である。現在、世界的に「塩分」は生活習慣病の原因として悪者扱いされ、いかに塩を減らすかが課題となっているが、そこで注目されるのが「旨味」だ。昆布やキノコ、トマトなどに含まれる旨味をうまく活用することで、塩分摂取を抑えつつ満足度を高めることができる。イギリスなどでは独自の旨味調味料ブランドが誕生しているほか、フランスなどではサラダに振りかける「ふりかけ」が、塩分を抑えたスパイスミックスとして受け入れられている。
さらに、1970〜80年代には「意味不明な白い塊」と思われていた豆腐が、今や多様性に応える「万能プロテイン」として世界中に浸透。ドイツやイスラエルでは、ナッツ入りや燻製味など、そのまま食べられるように味付けされた豆腐が人気。「こんにゃく」も同様で、かつては正体不明の食材とされていたが、現在は「究極のローカーボ・グルテンフリー麺」として、イタリアやアメリカで「エンジェルヘア(天使の髪の毛)」の名で広まっているという。また、タイではイカの食感をこんにゃくで再現したピリ辛スナックが大流行しており、低カロリーで罪悪感がない「ギルトフリー食」として確固たる地位を築いている、と報告。
キーワード5:日本式ワンミールの美学
最後は、日本食ならではの食事形式「ワンミール」である。今、世界で最も売れている日本食の一つが「おにぎり」だ。海藻を使い、グルテンフリーの米で、中の具材は自由にアレンジ可能。リーズナブルで持ち運びもできるおにぎりは、物価高の世界において最強のヘルシー・ファストフードとなっている。同様に、1つの器で栄養バランスが完結する「丼」も、タイパと健康を両立する食事として人気だ。栄養バランスを考え、美しく盛り付ける「お弁当」の文化は、海外から驚きと称賛をもって迎えられている。また、食べ物だけでなく「食べ方」として「居酒屋スタイル」は特に注目されているという。自分の体調や気分に合わせて好きなものを少しずつ組み立てられる居酒屋のシステムは、海外の人にとって「貴重で健康的な体験」として映っている。フランスではトップシェフが「居酒屋」という名のお店をオープンし、大行列を作るほどの人気になっているそうだ。 日本食には、世界中の「腸活」「プラントベース」「タイパ」といった現代のニーズに応える絶大なポテンシャルがある。しかし、成功の鍵は「日本人の発想をそのまま押し付けないこと」にある、と澤村氏。日本の伝統食材を、現地の食文化に合わせた「新素材」として再定義し、健康の文脈と掛け算することで、おにぎりが日常食になったように、あらゆる日本食材が世界中の日常生活に浸透していくのではないか。日本食は一過性の流行を超え、世界の食の「次世代スタンダード」へと力強く歩みを進めている、とまとめた。

