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2012.1.11血栓が原因で増える突然死、血液の性状を良くする生活習慣が予防のカギ

獨協医科大学法医学教室 助教授 一杉 正仁 氏

一頃、エコノミークラス症候群という病名が世を騒がせた。狭い空間に長時間同じ体勢でいることで血栓が生じ突然死に至るというものだ。血液の性状がこの疾患に深く関与しているといわれる。獨協医科大学法医学教室助教授の一杉正仁氏に突然死の予防法などうかがった。

一杉 正仁(ひとすぎ まさひと)

<略歴>
平成6年、東京慈恵会医大卒。川崎市立川崎病院勤務を経て東京慈恵会医大大学院修了、同大助手を経て現職。

獨協医科大学法医学教室助教授(大学院兼務)
栃木県警察本部嘱託警察医
医師、医学博士
日本法医学会法医認定医
日本法医学会評議員

血栓が原因で増える突然死、血液の性状を良くする生活習慣が予防のカギ

獨協医科大学法医学教室 助教授
一杉 正仁 氏

— 法医学を専門にされたきっかけについて

全身の血管のどこかに血の塊があれば肺の動脈に詰まり、肺動脈血栓塞栓症に至る

一杉: もともと私は内科医でしたが、ある時、患者さんが目の前で突然死しました。解剖してわかったのですが、亡くなった原因は、肺動脈血栓塞栓症でした。それで、突然死を研究しなければと思いました。

その後、警察の嘱託医をして、現場に行って急死した人、事故で亡くなった人の検案をし、社会と医学との関わりについて学びました。

突然死については、心筋梗塞や脳卒中がよく知られていますが、その一つに肺動脈血栓塞栓症があります。これは肺の血管に血の塊(血栓)が詰まり、肺に血が行かなくなるというものです。

肺の動脈は血液が戻ってくる最終地点です。全身の静脈のどこかに血栓があれば、それが肺の動脈に入って詰まります。幾ら空気を吸っても血が行きませんから、亡くなってしまいます。もちろん死なないケースもありますが、運悪く肺動脈の入り口に血栓が詰まると一瞬で終わりです。

肺動脈血栓塞栓症については、エコノミークラス症候群という呼び名でも知られています。元気な人が飛行機を降りたとたん亡くなるというようなことがありました。 調べてみますと、長時間飛行機のイスに座って、足を動かさないでいるということが多かったのです。そうしますと、足の静脈に血栓ができて血の巡りが悪くなります。それで亡くなってしまう結果になりました。

特に狭い空間に座っているエコノミークラス乗客者が多かったので、エコノミークラス症候群と呼んでいました。しかし、 飛行機の中だけでなく、日常生活空間でもおき得る疾患なのです。 現在では、エコノミークラス症候群を旅行者血栓症などという呼び名にしようと言われています。

— エコノミークラス症候群は昔からあったわけですか

2時間座ったままでいると、血液の粘性が上がる

一杉:昔からありました。1950年代にアメリカでそうした報告があります。長距離トラックの運転手が長時間トラックを運転して下肢の静脈に血栓ができたということが報告されています。

なぜ最近になってエコノミークラス症候群が注目されるようになったかといいますと、一つにはそうした症状が昔は診断されなかったということがあります。 すなわち原因不明の突然死例に対して死因を究明していなかったということです。

二つ目は、医学が進歩して、CT、MRIあるいは血管造影などで肺動脈血栓塞栓症の診断がつくようになったことです。
三つ目に、1980年以降、飛行機で人が移動することが多くなり、長時間座ったままという状態でいることが多くなったということがあります。

さまざまな要因がありますが、病気自体は以前からありました。エコノミークラス症候群にしても、とくに飛行機が悪いというのではなく、足の血管に血の塊ができるほど、長時間座っていることが悪いのです。根拠の実験の一つとして、室温が22℃前後、湿度が40-50%の一般のオフィスの環境に、若い人に2時間座っていただき、手足の血管から血液をとって、座る前後の血液の性状を調べました。

そうしますと、足からとった血液は2時間座っただけで粘性がすごく上がっているのがわかりました。これこそ血栓ができる原因であると突き止めたわけです。 ですから、飛行機が原因というわけではありません。日常でも起きているのです。また自動車の運転直後に肺動脈血栓塞栓症で亡くなった方もいます。

— 日本人の血液が昔と変わっているといったことがありますか

食生活の欧米化、運動不足が背景に

一杉: 背景には食生活の欧米化ということがあります。車も増え、運動量が低下して、糖尿病や高脂血症の患者さんが年々増えています。

最近、血液サラサラ、ドロドロ、ということが言われますが、血液が良い悪いというのは一概には言えません。どれか一つだけとってこれがあれば良いとか、これがなければ良いといったことは言えません。

私どもが開発した血液粘度の測定装置では、採血した血液を生体内にあるのと同じような状態で計っています。1時間も2時間も実験室に放置した血液ではなく採血直後の血液を測定しています。

— 突然死の予防については

食生活や運動で血を固まりにくくする生活習慣をつける

一杉:突然死は発症して間もなく死んでしまいます。ですから早期発見ということができません。予防については、日ごろから、食生活を含めた生活習慣に気をつける必要があります。怪我は病院に行けば治りますが、突然死はそうはいきません。だからこそ予防が大切なのです。

日常生活で長時間足を動かさないで座っている環境をなくしましょう。お芝居を見ている時でも足をちょっと動かすだけでだいぶ違います。足がむくみ、赤くはれていたら危険のサインです。足を動かすだけで、血栓症の予防になります。

要するに血を固まりにくくする生活習慣をつければいいのです。 食生活でも、コレステロールや中性脂肪を下げ、血糖値を正常にする、すなわち、生活習慣病の予防が大切です。

今、私が注目しているのがNKCPという物質です。納豆の抽出物で、分子量が3万4千くらいの蛋白です。納豆由来の蛋白質の中に、血液を固まりにくくする成分があります。

NKCPは納豆に含まれていますので、納豆を日ごろから食べることも血栓症の予防や突然死の防止にいいのではないかと考えています。 ただ、醤油やからしをつけるとかなりの塩分を摂ることになります。それで、納豆から都合の良いところだけをとったのがNKCPと言えるでしょう。

— 機能性食品については

きちんとした論文で科学的な根拠を明確にする必要がある

一杉:この間、民間のアンケートをみましたら、医薬品の他に機能性食品を使用している方がかなりおられるようでした。機能性食品で大事なことは科学的な根拠を明確にするということです。実験の手法が科学的に間違っていたり、あるいは一人や二人に飲ませて効いたというエビデンス(科学的な根拠)に乏しいものではなく、きちんとした論文で科学的な根拠を明らかにすることが大切です。

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