年々膨れ上がる国民医療費。本格的な高齢化時代を迎え、さらにこの傾向は高まる一方である。1961年に制定された国民皆保険制度は果して大丈夫なのか。この制度を21世紀へソフトランディングさせるため、医療現場から新しいシステム作りを提唱する声が挙がり、6年前、日本未病システム学会が設立した。常務理事の福生吉裕氏に機能性食品への期待などをうかがった。
福生 吉裕( ふくお よしひろ )
<略歴>
昭和47年、日本医科大学医学部卒業後、第二内科学教室入局。昭和53年、微生物免疫学にて医学博士号取得。平成2年、日本医科大学 第二内科助教授、現在に至る。動脈硬化、高脂血症の臨床および細胞生物学を中心に免疫と動脈硬化との関係の基礎研究を行う。共同通信社より「医師の目、人の目、未病医修行」を連載中。著書に「からだがわかる本」、「免疫から見た動脈硬化」など多数。
病気を未然に防ぐ心得、未病思想の普及を
(財)博慈会 老人研究所
所長 福生 吉裕 氏
— “未病”という言葉の意味についてお聞かせください
未病の状態を長くして国民医療費を削減する
福生:未病というのは、“未だ病にあらず”という意味で、自覚症状はないけれども検査をすると異常があるという状態、放っておくと必ず病気になるといった状態を指します。今から約2,000年くらい前、中国の漢の時代、医学や科学などに関わる万物の摂理を説いた「黄帝内経」という書物に、上医、中医、下医といった言葉が記されています。下医は既病、上医は未病を治すことを意味します。中国ではこの未病思想が医食同源の世界へと発展していきます。
日本は現在、高齢少子化時代を迎えています。このままいきますと、寝たきりのお年寄りよりがさらに増えるでしょうし、医療費のパンクは目に見えています。そこで私共では、今後医療と経済の共生が重要ではないかと思い、経済研究者と医学研究者の集まりの場として4年ほど前に東京未病研究会を設立しました。そして健康と病気の間である未病の時期を長くし、寝たきり状態を少なくしようと提唱してきました。
病気になりますと生産性が落ちます。未病の場合は医療費がかかっても生産性はある状態ですから、こうした状態をできるだけ長くすることが医療経済の側面からも重要なのです。
— 未病の範囲については
病気と共に生きようという共生思想が根底に
福生:高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満、動脈硬化、骨粗しょう症、貧血などの状態がそうであるといえます。またHIVポジティブもその範囲といえます。非常に幅広いです。また未病というのは予防医学とは異なります。感染症は予防医学の範疇ですが、未病はもっと懐が深いといえます。病気と仲良くやっていこうじゃないかという考え方、いわば共生思想が根底にあります。病気にならなければそれで良しとするバックグラウンドがあります。
病気になるというのは自分もつらいですが、周りにも迷惑をかけることになります。ですから、自分の身体のどこが悪いか早く検査し、歪みを治すようにすることが必要です。歪みを正すために生活習慣を改善するとか、あるいは健康食品を利用することも必要かと思います。皆が、自分自身の未病医になって、身体の仕組みを理解し、栄養状態を知り、レベルを上げていくことが大切です。
— 免疫力と未病とのかかわりは
ウイルスに感染しても、免疫力を高め、発症しないで寿命をまっとうするという発想
福生:例えばエイズのHIVポジティブとかB型肝炎のキャリアとかも未病に入ります。免疫調整剤で、発病しないで、普通の生活が送れれば、それでいいわけです。ですから免疫調節剤は未病の薬といえます。エイズウイルスが入ってきても発症させないで、未病のままで寿命をまっとうすればいいわけで、薬もそういう発想で作りましょうということです。
医者自体が患者のためにも健康食品についてもっと勉強すべき
福生:厚生省のいう生活習慣病対策に、健康食品のニーズは今後も高まると思います。ですが、玉石混交です。さらにいうと医者自体が的確に知らないという問題があります。最近、患者さんから健康食品についていろいろ質問を受けることも多くなりましたが、これは医学部では教えませんから、医者自身もよく知りません。そこで現実とのギャップが生じています。ですが、それではだめで、医者自身も健康食品をもっと勉強すべきだと思います。一般の人達が健康食品についていろいろ知識があれば、医者はそれ以上に知っておく必要があります。それで私共では医者もそうした機能性食品の勉強の場が必要であるとして来年広島でシンポジウムを予定しています。
今、機能性食品が注目されていますが、皆が自分の未病医になって、自分の身体の状態を知り、どういう状態の時にはどういう食品を摂ればいいかを知り、健康管理を行っていくことが大切かと思います。