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2013.11.11日本人の長寿体質を支えた納豆に、世界が注目

倉敷芸術科学大学 機能物質化学科教授 須見 洋行 氏

近年、食生活の欧米化で心筋梗塞や脳梗塞などの血栓疾患が日本人の間で増えている。そうした血栓を溶かす食品として日本人が昔から親しんできた「納豆」の機能性が注目されている。「納豆」に含まれる血栓溶解酵素「ナットウキナーゼ」やビタミンK2が日本人の長寿体質をささえてきたとして世界的にも関心が高まっている。”納豆博士”で知られる須見洋行教授に「納豆」の有用性についてうかがった。

須見 洋行(すみ ひろゆき)

<略歴>
1945年奈良県生まれ。1974年徳島大学医学部大学院終了。シカゴマイケルリース研究所文部省在外研究員、宮崎医科大学生理学助教授を経た後、1997年より倉敷芸術科学大学機能物質化学科教授に。通産省外郭団体JTTAS「天然物・生理機能素材研究委員会」会長。医学博士。“納豆博士”の異名でTV,ラジオなどマスコミでも活躍。

日本人の長寿体質を支えた納豆に、世界が注目

倉敷芸術科学大学機能物質化学科
教授 須見 洋行 氏

— 血栓溶解など納豆の機能性が注目されていますが、研究のきっかけは

須見:今世界中で使われている血栓溶解酵素は人間の尿から取ったウロキナーゼとか、メラノーマというがん細胞から採取した酵素のTPAといったものがありますが、私が米国のシカゴで血栓症の研究をしていた当時はウロキナーゼしかありませんでした。
その他、ヨーロッパではストレプトキナーゼやスタフィロキナーゼという、バクテリアからとった蛋白成分が見つかり、それを注射薬にして心筋梗塞や脳梗塞に早期治療すると溶けて治るといったことをずっと研究していました。

遊び心で納豆を試したところ、血栓を溶かす強力な酵素があることがわかった

私は日本人で納豆を食べる機会があったものですから、ある日、納豆を研究所に持っていきました。それが1980年です。血栓をシャーレの中に作り、その上にウロキナーゼをのせて血栓の溶ける強さを測るわけですが、遊び心で納豆を直接乗せてみました。その強い溶解面積から、納豆に強力な血栓溶解酵素があるということがわかりました。
帰国後も実験を重ね、1986年に日本で初めて、その研究成果を発表しました。「ナットウキナーゼ」と名付けたその酵素はNHKだとかいろいろな新聞で報道され、いつの間にか納豆博士になってしまったというわけです。

もともと私は発酵に関心があって、山梨大発酵生産学科(ワイン研究施設)を卒業した後、さらに酵素の研究を続けたくて医学部に入りました。納豆に限らず、発酵に関する限りは日本の技術は世界でもトップクラスで、また最もオリジナリティの高い分野と思います。

世界中の200以上の食品を調査したが、血栓溶解作用で納豆に勝るものはなかった

そうした外国で誇りにできるものを研究したいと思ったことと、食品の中にはじめて血栓を溶かす酵素を見つけたのがきっかけで、その後も納豆の研究を続けることとなりました。
現在までに世界中の食品200種類以上を検索しています。その結果、結局ナットウキナーゼよりも血栓の溶解で強いものはないということが判りました。人間の血栓をこれほど強く溶かす酵素をなぜ納豆が持っているのかわかりませんが、ナットウキナーゼよりも溶解性が強い酵素を持ち、しかも食べても安全という食品は他にありません。

— ナットウキナーゼは、大豆をベースにした納豆という形でなくとも出るものなのですか

須見:普通の大豆でなくても黒豆でもいいですし、小豆とかインゲンマメでもでもいいです。効率よく出すにはひまわりの種などもいいです。ただ納豆菌というのは大豆の成分を非常に好みます。効率からいうと大豆のたんぱくをエサにしているほうがナットウキナーゼの生産量は多いようです。
もともとの納豆の発祥というのはアジアですが、稲ワラがあって大豆があれば、ワラに住みつく納豆菌によって自然発生する訳です。また、大豆があるところには納豆菌も増えてくるようです。米国も150年くらいかかって大豆を植えるようになりましたが、その間に納豆菌もたぶん住むようになっていると思います。

— 納豆に含まれるナットウキナーゼやビタミンK2の機能性については

須見:納豆が一般的に食べられるようになったのは、江戸時代といわれています。江戸の町には納豆売りの声がしょっちゅう聞こえたといわれます。納豆の効用については、お腹が痛くなった時、風邪を引きそうになった時、赤ちゃんが生まれる時とか伝承的なものがたくさんあります。
これは納豆が栄養価が高く、しかも、それが吸収されやすいためです。それと、もう一つは抗菌性。昔は食中毒が多かったわけですが、コレラやチフスや赤痢などの予防のために納豆を利用したという歴史があります。

納豆は抗菌性が強く、O-157を抑制するジピコリン酸も含んでいる

江戸時代の食べ物辞典に、納豆は「毒を消して食をすすめる」と記されています。「毒を消す」というのは今の抗菌性にあたります。最近、納豆にO-157を抑制するジピコリン酸が含まれているとか、一種の抗生物質のような働きがあることも明らかになってきています。また悪い菌は抑えるが、乳酸菌のような良い菌に対しては増やすように働き、整腸効果があるといったことも判っています。

またその本体の一番よく分かっているのが血栓を溶かす酵素として注目されているナットウキナーゼです。今、日本人は米国に近い食生活を送っていますから血栓症が増えています。心筋梗塞とか脳梗塞とか、胸と頭に起こる血栓症は2つ合わせるとがんより多い。また老人性の痴呆症も血栓性の病気ですが、ナットウキナーゼは注射薬ではなく、食べて非常に長い間血栓を溶かすように働くため、血栓性の病気の予防食として注目されています。

骨粗しょう症の予防に納豆のビタミンK2が必須

この他、納豆にはビタミンK2という有効成分が含まれています。60歳以上の女性の約60%が骨粗しょう症にかかるといわれますが、K2は骨粗しょう症の予防にいいのです。骨というと牛乳やビタミンDでカルシウムを取り入れようという研究はたくさんありますが、骨にカルシウムが結合する際、オステオカルシンというたんぱく質がカルシウムに対して一種の糊の役目を果たし、そのたんぱく質を作るためにビタミンK2が必須であるということが最近判ってきました。
また、最近の疫学的調査によって、骨粗しょう症の人は元気な人に比べ、ビタミンK2が減っていることも判っています。

健康な人は消化管で大腸菌のような微生物が常にK2を作っているため問題ありません。ところが年をとったり、抗生物質の入っているような薬を飲んだりしますと、消化管の微生物が弱ってきてK2の量が減ります。そういう微生物由来のK2が非常に骨粗しょう症と関係しているということがはっきりしてきて、最近厚生省もK2を骨粗しょう症の治療薬として認めました。
微生物由来のK2を補給するものは酵母も乳酸菌も麹もみんな持っていなくて、唯一納豆だけが持っています。納豆菌というのは世界でも例のない特殊な細菌で、しかもそれを人間が生で食べているというわけです。そのため世界中の食品の中で納豆が唯一ビタミンK2を持つ食品として注目されているのです。

ビタミンK2は化学名でいうとメナキノン7といいます。今、K1とかメナキノン4とかが厚生省認定の薬で合成されています。血液の中の成分を分析してみると、健康な人にあって骨粗しょう症の人に少ないビタミンがメナキノン7です。これが減るから骨粗しょう症になるということがわかってきましたが、それは実は納豆菌が出すものなんです。
それで納豆を摂ることが骨の予防になるわけです。牛乳をのんだり、しいたけを食べることで骨の元になる成分を摂ることは大切ですが、さらにK2が必須であるというわけです。メナキノン7というのは化学技術庁の分析データの中にも納豆の中の成分は最近やっと表示されたばかりで、試薬としてもまだ売られていません。

納豆1パック(100g)で充分なビタミンK2が補給できる

今、メナキノン7の分析をやっていますが、納豆というのは100gの中に約1,000マイクログラムのメナキノン7を含みます。正常な人は1日に体重1キログラムあたり1マイクログラム摂ればいいです。60キログラムの人ですと60マイクログラムです。ですから計算上は10gの納豆で1日分が充分補給できることになります。腸内細菌が弱った時、納豆1パックで充分補給できるわけです。

東京、大阪、ロンドンに住む人達の血液中のメナキノン7を計りますと、関西の人は関東の人に比べ半分くらいしかありません。納豆を食べないからです。もちろんロンドンの人はもっと少ないです。現在いろんな疫学的な調査が行われていますが、納豆を食べる人は血液中にメナキノン7が多いです。
また骨粗しょう症とそうでない人をみると骨粗しょう症を起こしている人ほどメナキノン7が少ないです。統計的にもはっきりしています。ですから納豆を食べて骨の予防をしようということは科学的にも根拠があります。

また納豆の中の抗酸化物質で、一つにはイソフラボン化合物というのがありますが、1日に1パックの納豆を食べると50mgのイソフラボンが摂れます。50mgというのは今米国でも推奨されているがん予防のための必要量です。米国では日本の15倍くらい前立腺がんが多いといわれますが、こうした前立腺がんや乳がんの予防にも納豆が注目されています。
またイソフラボンには一種の女性ホルモンとしての効果がありますが、大豆の女性ホルモンが人間由来の女性ホルモンを抑えてくれるからいいとされています。また、男性の前立腺がんなども女性ホルモンが効きますが、男女ともこうしたがんの予防のために抗酸化物質のイソフラボンが大変注目されています。

ところで、こうした抗酸化活性だけみると大豆より納豆菌が発酵して、納豆になった時のほうが活性が約4倍に高まります。これは納豆菌によって独特の抗酸化物質が作られるわけですが、それがどういう物質であるかについては、まだ研究中です。

— 納豆の味やネバリが苦手な人がいますが、うまく食生活の中に取り入れていくべきですね

須見:納豆の成分というのは血栓症のような病気に効くわけですから、そうした病気の予防のためにも取り入れていく必要があるかと思います。現在、日本の法律では治療薬は認められますが、予防薬というものは認められません。ですから、予防専門に使える食品というのがこれからどんどん伸びていくと思います。

納豆が食べやすく改良された結果、有効成分が未熟になってしまった

ただ、納豆をもっと食べやすくということで、今匂いが少なくてネバリも少ない関西風になり、非常に未熟な納豆が増えています。というのも昭和20年にGHQが来て、こんないいかげんな作り方で腐ったようなものを食べているからコレラやチフスが多いのではないかと、納豆の販売が止められたことがあります。それ以降、もう少しきれいに作ろうということで、結果的に純粋培養された3種類くらいの菌が使われるようなりました。改良されたことで、美味しく安全なのですが、反面、昔に比べて促成栽培で、抗菌物質やビタミンK2やナットウキナーゼも未熟になってしまいました。
昭和11年頃の納豆の成分や活性を調べた論文がありますが、当時のものと今のものを比べると、抗菌成分などははるかに少なくなっています。

— パーフェクトフードとして、日本の納豆は今後世界的にも注目を集めそうですね    

須見:納豆は日本人のお腹の中の菌には相性がよく、逆にいうと、日本人は納豆菌由来の菌を摂っていないと調子の悪い国民じゃないかという感じもします。納豆というのは1gの中に10億とか100億の菌が生きています。まさに納豆菌の塊です。この納豆菌はそれ自体が厚生省認定の薬にもなっており、胃薬の中にも納豆菌が入っています。昔から当たり前のように薬で使われていたものをそれに近い形で今食べているのが納豆なのです。

米国をはじめ、世界中で納豆が長寿食として今一番関心が持たれている

もともと大豆はベジタブルチーズとして外国でも知られており、10年くらい前には乾燥納豆も登場し、JALの機内食になったり、ビールのつまみに利用されています。また米国では大豆を利用した病気予防の国際学会というのも開催され、その中で納豆はかなりのブームになっています。
日本は世界で一番の長寿国ということもあって、米国では納豆という世界の他の人が食べていない食品に、神秘的な食べ物として関心を寄せているのです。英文の学術誌に初めて紹介されたのが1896年。ちょうど100年目の今、世界中で長寿食として一番関心がもたれているのが納豆なのです。

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