2019年6月29日(土)、日本医師会館にて「第155回日本医学会シンポジウム 超高齢社会における医療の取り組み-ロコモ・フレイル・サルコペニア」が開催された。この中なら、出江 紳一氏(東北大学大学院工学研究科 大学院医学研究科教授)の講演「高齢者筋萎縮・低栄養・嚥下障害の現状と課題」を取り上げる。
サルコペニア、嚥下障害の危険因子
「サルコペニア」とは1989年にローゼンバーグ氏によって作られた造語で、「加齢による筋肉量減少」を意味するが、サルコペニアの定義については確定されたものがない。
各学会が定義を改定し、現在は「筋力低下(身体能力の低下)」「筋肉量の減少」をサルコペニアとしている国が多い。
ちなみに欧米人とアジア人では筋骨格系が大きく異なる。そのため、アジアではアジアのサルコペニア診断基準があり、主に握力や歩行スピードによって診断されている。
近年、サルコペニアが嚥下障害の危険因子で、深い関係があると示唆され、なかには嚥下障害関連肺炎の死亡率を上昇させるという報告もある。
嚥下筋、加齢とともに筋肉量が減少
筋肉が産生し分泌するタンパク質にサイトカイン(マイオカイン)があり、敗血症などの炎症は筋肉を萎縮させるマイオカインを誘導することが報告されている。
しかし、嚥下障害による肺炎が、筋萎縮やマイオカイン産生を誘導するメカニズムはまだ明らかではない。
そこで、出江氏の所属する研究室では、嚥下障害による肺炎を起こしたヒトとマウスモデルを解析。すると肺炎が筋萎縮を誘導していることが確認できたという。
サルコペニアと嚥下障害、そこから生じる誤嚥性肺炎との関係について、そのメカニズムが完全に解明されたわけではないが、サルコペニアは嚥下をするための嚥下筋でもおきている。
一般的に、サルコペニア予防では負荷をかける部位として、太ももや腹筋など、体の中でも大きな筋肉ばかりに意識が行くが、嚥下筋は咀嚼に不可欠な筋肉であり、嚥下筋も加齢とともに筋肉量が減少することがわかってきた、という。
サルコペニア、運動不足と低栄養で加速
サルコペニアはいろいろな原因によって生じるが、寝たきりになると低栄養に陥りがちになり、嚥下障害が起こりやすいという仮説がある。
運動不足と低栄養によってサルコペニアが進み、その結果、嚥下障害がおこりやすくなる。
いずれにせよ、加齢により筋肉量は減少傾向にあるため、何かしらの予防策を講じなければ加齢とともに誰でもサルコペニアに陥る可能性がある。
日常生活に支障のないサルコペニアであっても、ちょっとした転倒などをきっかけに進行してしまうことも多い。
筋力と嚥下障害による肺炎との関係
サルコペニア状態になると、嚥下筋を含む全身の筋肉量が低下し、誤嚥が起こりやすくなる。
すると「慢性炎症」が生じ、「筋肉を萎縮するマイオカインが産生」されたり、「低栄養」になりがちになり、益々「筋萎縮」が進み、「サルコペニア」が進行する。
これは仮説の段階だが、サルコペニアが誤嚥性肺炎のリスクを高め、誤嚥性肺炎が筋萎縮とサルコペニアを悪化させるという悪循環の図が予測できる、と出江氏。
筋肉量や筋力が嚥下障害による肺炎の発症とどのように関係しているかは現在解析中だが、筋肉量の維持や質の保持は、死亡者数が増え続けている嚥下障害による誤嚥性肺炎の予防や治療につながる可能性があり、今後も研究を続けたい、とした。