2021年4月21日(水)、web配信により㈱アイメックRDセミナー「ポストコロナ、機能性食品開発への展望」が開催された。この中から内藤裕二氏(京都府立医科大学大学院医学研究科 分子標的予防医学教室 生体免疫栄養学講座(寄附講座)教授)の講演「機能性表示食品の過去・現在・未来」を取り上げる。
「健康寿命」と「平均寿命」の間に約10年の差
日本人の胃がんの原因は99%がピロリ菌であることがわかっているが、内藤氏は日本ではじめて都道府県単位での無料の高校生ピロリ菌スクリーニングを京都府と協力して手掛けており、50年後には京都から胃がんを撲滅することを目標に活動してきた。
しかしこうした活動を行う一方で、がんを克服しても幸せになれない、幸せに生きられない人たちがいることに内藤氏は心を痛めていたという。
そこで現在は「がんを克服した人がウェルビーイング(身体的・社会的・精神的に良好な状態であること)に生きる」をテーマに、本年4月より同大学で「生体免疫栄養学講座」を立ち上げ、新たな活動をはじめているという。
よく知られるように「健康寿命」と「平均寿命」の間には約10年の乖離がある。このデータは2000年に発表されたものであり、そこから20年以上経過する現在も現実は変わっておらず、医師や医療界は責められる立場にある、と内藤氏。
腸内環境や免疫維持が重要
例えば、よく言われるようにフレイルに介入することは非常に重要だということは間違いない。
フレイルやサルコペニアは加齢でも進むが、例えばがんの患者はどんどん食が細くなり急激にフレイルやサルコペニアが進むことで抗がん剤などの治療もできなくなってしまう。あるいはメタボリックなのに筋肉量が異常に少ないサルコペニアも問題だ。
しかしこれらの問題になかなか医療が介入できていない現状がある。
例えばこれら予防するために「高齢者はタンパク質を意識的に摂取するように」とか「健康長寿の高齢者ほどステーキを食べている」といった情報も流れる。
しかし、日本人が本当にステーキを食べてサルコペニアを予防できるのかについて十分な根拠はない。
またパプアニューギニアの男性は基本的にさつまいもを主食としていてそればかり食べているがなぜあんなにも筋肉隆々なのかについて説明がつかない。
これについては、おそらく、パプアニューギニア人の腸内細菌の中にさつまいもからアミノ酸を作る菌があるからだと推測される。
つまり「何を食べるか」は大切だが、それよりも医学的には「腸内環境や免疫を維持することでウェルビーイングを維持する」知見を提示することの方が重要ではないか、と内藤氏。
日本人の食物繊維摂取量、世界的に極めて少ない
現在、消費者庁のデータベースには3958件の機能性表示食品が登録されており、その中の466件が「食物繊維」でしかもその多くが「難消化性デキストリン」である。
しかし食物繊維は「便通改善」や「血糖値のコントロール」だけではない様々な可能性を秘めた機能性成分であることをもっと伝えていく必要がある。
私たちは機能性表示食品やトクホ食品だけを食べて暮らしていけるわけではない。やはり生鮮食品からいかに食物繊維を摂取するかについて理解することがはるかに重要ではないか、と内藤氏。
世界的にも食物繊維が「大腸癌」だけでなく「全死亡リスク」「心疾患」「糖尿病」のリスクを低下させることはよく知られておりエビデンスもある。
それは日本人を対象にした調査でも同じ結果が得られているが、日本人の食物繊維摂取量は世界的に見ても極めて少ない。
例えば心筋梗塞のリスク低減には24g(日)の食物繊維摂取が必要とされるが、18歳以上の日本人の食物繊維の平均摂取量は13.7gであり、大きな隔たりがある。
特に日本人の場合、穀類と野菜からの食物繊維摂取量が大幅に減少していることがわかっている。この辺りをどうやって食事で改善していくかは、機能性表示食品やサプリメントの啓蒙以上に重要ではないか、と内藤氏。
基本的に和食は健康食とされているが、世界的にはエビデンスのある地中海食の方が高い評価を得ている。和食が良いというならエビデンスを整えていく必要もある。
食物繊維、インフルエンザ感染を抑制
食物繊維は腸内のマイクロバイオームを変化させることで健康に良い影響を与えることもわかってきている。
例えば、2018年にマウスの試験で、食物繊維はインフルエンザ感染を抑制するというエビデンスもでている。地中海食が良いのもおそらくマイクロバイオームに影響を与えるため。
内藤氏が特に注目しているのが、食物繊維の中でも「高発酵食物繊維」とされるもの。これは腸内細菌が好んで食べる食物繊維で、高発酵食物繊維によりさまざまな短鎖脂肪酸が生成されることがわかってきている、という。
具体的にはグァーガム、小麦胚芽、難消化性でんぷん、水溶性大豆食物繊維などが高発酵食物繊維に分類される。
水溶性食物繊維(高発酵性食物繊維)を腸内細菌が食べて発酵させることで短鎖脂肪酸(酪酸、プロピオン酸、酢酸など)が産生される。
それが脳へシグナルを送ることで、抗ストレス、認知機能改善、食欲改善などの効果が得られるという経路も解明されてきている。
食物繊維、「パラミロン」に注目
また、内藤氏は「パラミロン」という食物繊維の一種にも注目しているという。この成分は生体内に取り込まれても一切吸収されることなく糞便中に排出されていくが、私たちの生体に様々な健康効果を発揮することが数々の論文で発表されており、今盛んに研究が進められている。
これはおそらく腸にも足裏のように「ツボ」とでもいえるセンサーが存在し、これをパラミロンが刺激しているのではないか。
つまり、消化管とは消化・吸収の機能だけでなく、さまざまな科学的・物理的刺激を感受するセンサーとしての役割を担っているのではないか、と内藤氏。
食物繊維にも腸機能にもまだまだ解明されてないことが多くある。機能性表示食品の開発とともに、この辺りの研究も進めていくこと、また機能性表示食品の効果を検証するのに役立つウエアラブルデバイスなどの開発も望まれる、とまとめた。