特定非営利活動法人

HOME > 「食」のトピックス > 地域住民におけるDHA・EPA、アラキドン酸摂取量と認知機能の関連

2024.11.5地域住民におけるDHA・EPA、アラキドン酸摂取量と認知機能の関連一般財団法人日本水産油脂協会第25回公開講演会「生体ではたらくDHA・EPA―筋肉・腎臓・脳」

2024年10月16日(水)、オンラインとリアルのハイブリットでDHA・EPA協議会、一般財団法人日本水産油脂協会による第25回公開講演会「生体ではたらくDHA・EPA―筋肉・腎臓・脳」が開催された。ここでは国立研究開発法人国立長寿医療研究センター研究所の大塚礼氏による講演「地域住民におけるDHA・EPA、アラキドン酸摂取量と認知機能の関連」を取り上げる。

国立研究開発法人国立長寿医療研究センター研究所老化疫学研究部部長 大塚 礼

脂質は栄養学的に分析すると我々の「エネルギー源」であり「細胞膜の構成成分」であり「脂溶性ビタミンなどの吸収力を助ける補助要素」であり、「満腹感」や「嗜好性」を高めてくれる大切な栄養素の一つである。国民健康・栄養調査によれば2020年以降、日本人の摂取カロリーの内訳においてタンパク質の摂取量は横這いであるが、炭水化物の摂取量は減少傾向にあり、一方で脂質の摂取量が著しく増加していることが指摘されている。とはいえ、日本人の平均的な食事に含まれる脂質の割合は約25%程度で、米国は33%を超えているので、それに比べると摂り過ぎているわけではない、と大塚氏。

日本は超高齢社会を迎えているが、その中でも問題になっているのが認知症患者の増加である。認知症とはいろいろな原因で脳の細胞が死んでしまい、働きが悪くなることで、さまざまな障害が起こり、生活する上で支障が出ている状態を指す。日本における認知症の患者数は約443万人を超えていると推計され(65歳以上の6~7人に1人)、認知症と正常の中間状態である高齢者の数は約559万人とされる。10年前には「認知症患者が激増する」と推測されていたが、実際は「微増」程度で、この10年、メディアなどを通じて認知症に関する啓蒙が広まり、予防している高齢者も多いことが推測される、と解説した。

「認知症」と密接に関係する栄養素が「脂質」だと考えられている、と大塚氏。脳を乾燥させると重量の60%が脂質だとされるほど脳には脂質が多く含まれている。特に記憶に関与する前頭葉にはDHAが21.5%も含まれており、脳にとって脂質は重要な役割を果たしていることが推測される。国立長寿医療研究センターは1997年より「老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA )」を実施している。この疫学調査はセンターのある愛知県大府市と知多郡東浦町の住民を対象に行われており、初参加時の年齢を40歳〜79歳までに設定し(毎年40歳の人をリクルート)、地域から無作為に抽出した約2000人の参加者に、さまざまな角度から老化の進行過程を測定、記録するものだ。できるだけ同じ人を長期にわたって繰り返し調査をして、老化の過程や認知症、骨粗鬆症、老人性難聴などの老年病の発症の要因を明らかにすることが最大の目的で、さらにその予防法を見つけ出すことを目標としている。現在第10次調査を行なっている最中で、参加者の多くが継続して参加している中規模コホート研究調査になっているという。

この30年近い疫学調査でわかってきたことの一つに「DHAやEPAを多く含む青魚等を十分に摂取している高齢者はそうでない高齢者と比較して認知機能低下リスクが低い可能性がある」ということだ、と解説。疫学調査をする中で、脳の海馬部分は70代を超えたあたりから容積が小さくなる(海馬の萎縮が進行する)ことが確認されているが、脂質の中でもアラキドン酸の血中濃度が高い、または食事から十分に摂取している人ほど、海馬の萎縮は認められないことが確認できているという。アラキドン酸(ARA)は肉類、卵、魚介類、レバーなど幅広い食品に含まれているが、血清EPA/ARAの割合が高い人ほどそもそも動脈硬化を起こしにくい。認知症の予防については、アラキドン酸の摂取が十分であることで脳の萎縮が予防できる可能性があることがわかってきているが、DHAやEPAを多く摂取することで脳の萎縮が予防できるかについては、アラキドン酸ほどの優位性が見られなかったという。特に海外ではベジタリアンなど極端にDHAやEPAの摂取が乏しい民族がいる。そこで、元々DHA・EPAの摂取量が少ない日本人と、DHA・EPAの摂取量が多く血中濃度も高い日本人同士での比較を行ったところ、DHA・EPAの摂取量が多い高齢者ほど、海馬の萎縮は小さいことが確認できたという。

認知症の一番のリスクファクターは「加齢」であるが、疫学調査から「適切な量の脂質(アラキドン酸・DHA・EPA)を摂取すること」が、予防に役立つ可能性がある、といえそうだ、と大塚氏。ちなみに同じ疫学調査から日本人においてアラキドン酸の摂取量は大幅に増えていることはわかっている。アラキドン酸の過剰摂取は動脈硬化のリスクとなり、食事全体(エネルギー摂取量)の中で脂質の割合が30%を超えると、生活習慣病のリスクが上がる。一方、脂質の摂取が少なすぎるとフレイルのリスクが上がり、骨格筋の維持もしにくくなることがわかっている。あくまで適度な脂質の摂取が重要になってくるだろう、と解説。 現在、疫学調査からわかってきたことは、健康長寿のためには「1日の食事摂取量のうち総脂肪量(エネルギー)は全体の30%以下にすること」がまず大事で、「DHAやEPAは週に1〜2回以上魚食にすることで摂取し続け」「アラキドン酸については、動物性製品に含まれるが適度に摂取する」とよさそうだ、と大塚氏。アラキドン酸はn-6系、DHAやEPAはn-3系に分類されるが、n-6とn-3の割合は4:1が理想的とされる。この割合も考えながら献立を考えると良さそうだ、とまとめた。また、今後ベジタリアンの人は体内の脂質の動体や役割がどうなっているのかについても研究し、比較する必要があるとした。

最近の投稿

「食」のトピックス 2024.12.2

遺伝子発現解析技術を利用した食品成分の安全性評価

「食」のトピックス 2024.11.18

栄養・機能性飲料のグローバルトレンド

「食」のトピックス 2024.11.11

食による免疫調節と腸内細菌

「食」のトピックス 2024.11.5

地域住民におけるDHA・EPA、アラキドン酸摂取量と認知機能の関連

「食」のトピックス 2024.10.21

大豆のはたらき〜人と地球を健康に〜

カテゴリー

ページトップへ