特定非営利活動法人

HOME > 「食」のトピックス > 現代社会における疲労の特徴とウェルネスフード活用の光

2024.7.29現代社会における疲労の特徴とウェルネスフード活用の光ウェルネスフードジャパン2024

2024年7月16日(火)〜18日(木)、東京ビッグサイトにてウェルネスフードジャパン2024が開催された。国内外の健康食品・機能性食品素材産業の業界関係者が4万人以上足を運び、活発に情報交換が行われた。

神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科  大阪公立大学健康科学イノベーションセンター  渡辺 恭良

私たち人はさまざまな病気にかかるが、そのほとんどに疲労や慢性疲労が関与している。しかもその関わりは病気の前段階にあることが多い。いわゆる「未病」とされる状態であるが、この段階でいかに病気を食い止めるか。未病の段階で「健康」に戻すためには、復元力を増やすことが重要だ。疲労やストレスは体内でどうしても生じるもので、疲労やストレスを完全に無くすことは難しい。しかし疲労に対する抵抗力ならつけることができる。また、疲労やストレスから病気に至るまでの過程にはいくつかのパターンがある。最近は疲労を「数値化」することが可能になり、それを確認すると「疲労スコア」が高い人ほど「意欲の低下、痛み、慢性疼痛、抑うつ、睡眠障害、生活習慣病」の発症リスクが高まることが確認されている。そこで渡辺氏はこれまでの疲労研究成果から「疲労度を未病の指標に使えないか?」という研究を行っているという。

文部省も疲労研究や調査を行っているが、その調査報告によれば、米国・英国・スエーデンでも「慢性疲労(1ヶ月以上の継続した疲労)」と回答する人は全体の20%程度であるのに対し、日本では大人の慢性疲労が40〜56%、子供でも小学生で32%、中学生で42%、高校生で58%と慢性疲労の人が世界的にも多く、また慢性疲労と回答する子どもたちの中に不登校の子どもが30%いることも見逃せない、と渡辺氏は解説。さらに疲労に関する最新調査についても言及。日本リカバリー協会が、2023年に10万人を対象にした疲労調査では、「疲れている人」が81.8%だったという。年齢別・世代別で確認すると「若い女性(30代、20代の女性)」の50%が疲労を訴えた。疲労による経済損失は約1〜2兆円とされ、周辺事故を入れると約7兆円を超えるとされているが、実際はこの3倍以上の損失が出ていると推計される。また何らかの疾病に陥った際に、疲労度が高い人ほど重症化しやすく、死に至るケースも多い。米国でもがん研究者が疲労について研究しているほど、がんの治療に疲労の改善が切り離せなくなっているという。

私たちの体内では、エネルギー源となるアデノシン三リン酸(ATP)が酸素を使って細胞内で作られ、そのATPが分解されることによって生産されるエネルギーを利用し生命が維持されている。その際に数%の活性酸素が生じるが、それに対する修復エネルギーが疲労解消に重要で、修復エネルギーが不十分であると体内で炎症が起こり、エイジング(老い)も進む。疲労とエイジングは基本的には同じメカニズムで起こるが、体内で最も疲労が起こるのが「脳」で、私たちはまず脳疲労を解消する、あるいは低減させる方法を考えなければならない、と渡辺氏は提言。脳はいつも「次の活動」ができるよう、常にエネルギーを消費しており、エネルギーが不足しがちだ。この脳疲労については食事やサプリメントだけでなく、「香り・入浴・音楽・リカバリーウェア」などさまざまなものが役立つとされ、幅広く調査研究され、それぞれの効果については疲労のスコアリングで確認できるようになってきている。脳疲労や疲労に効果的な機能性成分もわかってきていて「イミダゾールペプチド」「茶カテキン」「カロテノイド」「オルニチン」「還元型コエンザイムQ10」「アルファリポ酸」「クエン酸」「NMN」「DHA/EPA」などの摂取で、疲労スコアが有意に改善されることが報告されている、と渡辺氏。しかしどの成分が効果的なのかは、個人差があり、これからは自分に必要なものをパーソナライズしていくステージではないかと話す。特に慢性疲労を訴える人のほとんどが、「副交感神経と交感神経のスイッチの切り替えがうまくできていない」「起床後、スムーズに交感神経が入らない」「そのために熟睡考えられない」傾向にあり、入眠から起床時まで質を高めていくことが疲労解消の鍵になると考えられていると解説。

良い睡眠のための機能性成分に「GABA」や「トリプトファン」「グリシン」そして近年は一部の乳酸菌などが確認されているが、いずれもこれらが体内でしっかり活用されるための補酵素(ビタミンB群など)も必要で、やはり「食事全体のバランスや質」という話になってくる。そして、睡眠と食事や機能性成分によって脳疲労を効率的に解消させるだけでなく、日常生活において「脳を疲労させない」方法を考える必要もある、とした。例えば脳が疲れにくい人は例えばピアニストがピアノを弾いている最中に脳をほとんど使わないのと同じで、スマホや情報をコントロールするのも有効だろうとした。 最近では食材そのものに付加価値をつけることが増えてきているが、香川県の「産業活性化」事業の一環として誕生した「オリーブはまち」を紹介。オリーブの葉を粉末にして餌に2%添加した養殖ハマチだ。はまちそのものにDHAやEPAが豊富に含まれているが、オリーブはまちは抗酸化成分を豊富に含み、300gの摂取で「酸化ストレス・炎症・悪玉コレステロール産生」等を抑制し、ポジティブな感情を誘引する効果や疲労軽減に役立つことが確認されているという。抗酸化成分の摂取だけでなく、オリーブはまちのような抗疲労食を食べても疲労度が下がり自律神経系が整うことが確認されており、食と健康に関するエビデンスは十分揃ってきている。自分が美味しく、楽しく、続けられる食事内容や健康改善方法を見つけ、自分に合ったウエルネスが実現する社会に間違いなく向かっている、とまとめた。

最近の投稿

「食」のトピックス 2024.12.20

腸内フローラ・多様性とエコシステム

「食」のトピックス 2024.12.11

機能性表示食品における国の規制強化と検査機関としての取り組み

「食」のトピックス 2024.12.2

遺伝子発現解析技術を利用した食品成分の安全性評価

「食」のトピックス 2024.11.18

栄養・機能性飲料のグローバルトレンド

「食」のトピックス 2024.11.11

食による免疫調節と腸内細菌

カテゴリー

ページトップへ