特定非営利活動法人日本食品機能研究会(JAFRA)は、2008年9月21日(日)、東京・丸の内・東商ホールで「健康フォーラム2008~メタボリックシンドローム・正しい理解とその対策」を開催しました(後援:NPO法人セルフメディケーション推進協議会、日本生活習慣病予防協会、CMPジャパン株式会社)。メタボリックシンドロームをテーマに、この世界を代表する4氏が講演しました。それぞれの要旨は以下の通りです。
「生活習慣病とメタボリックシンドローム」
池田義雄氏(日本生活習慣病予防協会理事長・医学博士)
メタボリクシンドロームの源流にある肥満の割合(18歳以上でBMI25以上)は、男性1300万人、女性1000万人を数え、中高年者における肥満時に内臓脂肪型肥満は男女を問わず高血圧、糖尿病、血清脂質異常を誘導し、これらの重なり合いがメタボリックシンドロームを成立させる。
また、メタボリックシンドロームを呈するものでは心筋梗塞や脳梗塞などの死に直結する生活習慣病を招くほか、 慢性腎障害(CKD)、高尿酸血症(痛風)、脂肪肝、さらには一部のガンの発症ともリンクすることから、これらは肥満とメタボリックシンドローム防止を主軸とした国民レベルでの一次予防への取り組みが重要である。
一無「禁煙」、二少「少食・少酒」、三多「多動・多休・多接」を心得る
ダイエットが単に体重を減らすことと捉えられているが、この語源がギリシャ語の「生きざま(生活様式)」であることから、「食事療法、減食療法」という意味で用いられ、「望ましい食生活様式」として理解するのが正しい。 メタボリックシンドロームを予防するための決め手となるライフスタイルについては、「一無、二少、三多」と心得るのが適切である。
一無は禁煙。二少は少食(腹七、八分目)、少酒(飲める人でもアルコール量として20g以内)。そして、三多は多動(積極的に運動をする)、多休(充分な休養・睡眠をとる)、多接(多くの人、事、物に接し、良い趣味を育み創造的な生活をする)を意味している。
特定保健用食品(トクホ)に関しては、現在認可されている700を超えている商品の大半が食物繊維、乳酸菌、オリゴ糖関連で、「お腹の調子を整える」という食品機能が認可対象となっている。血圧、血糖、体脂肪、コレステロール、中性脂肪に関連した健康表示のできる食品が次々と開発されていることから、これらを通常の食生活にプラスして有効利用することで、メタボリックシンドロームを含む生活習慣病の一次予防に役立てられることが期待されている。
「メタボリックシンドロームの食事療法」
済陽高穂氏(トワーム小江戸病院院長・医学博士)
世界的に激増しているメタボリックシンドロームは、内臓脂肪蓄積を特徴として糖尿病、高血圧、脂質異常症などを惹起し、ひいては高度の動脈硬化症に発展して、狭心症・心筋梗塞や脳梗塞に至る重篤な病態といえる。
しかしながら、栄養・食事の観点から検討すると、栄養過多・肥満に深く関連しており、これを生活習慣病と捉えて食事や日常生活の改変を行なうことにより、健康回復をさせる事実が蓄積されてきている。
塩と脂の二重奏とメタボリックシンドローム・動脈硬化の関係については、塩分の摂取により血液浸透圧が上昇して高血圧となるほか、リンパ液も高浸透圧となって内臓のリンパ流の増加をみる。脂肪の多い食事では、脂肪分解産物であるカイロミクロンなどが小腸粘膜などからリンパ管へ盛んに吸収されやすくなり、高脂血症を招く。
そして、内臓脂肪蓄積により肥大し大型化した脂肪細胞は、アディポネクチンの分泌能が低下するとともに、TNFなどを分泌するため、骨格筋でのインスリン感受性が低下し、高血糖を来たす。
また、高脂血症での過剰な酸化LDLは毒性物質であり、この排除のために血管壁マクロファージが動員され、LDLをとりこんで泡沫細胞となって死滅し、血管壁に粥状腫として沈着する。 メタボリックシンドローム治療のもっとも有効な方法は、食事の改善である。
ゲルソンやマクロビオティック療法、メタボリックシンドロームに約8割の有効性
ドイツ系アメリカ人Max Gerson が創始したゲルソン療法は、第二次世界大戦前、ミュンヘン大学関連施設において480名余の結核患者の95%を改善・治癒に導いて世界的評価を得、またリウマチや多発性抗硬化症(MS)などにも奏功し約100年の歴史がある。
次いで、ゲルソン療法は「がんの食事療法」として確立され、久司道夫のマクロバイオティクス、玄米・菜食の日本の甲田療法とほぼ共通した栄養療法となっている。
その骨子は、塩分、動物性(アニマル:四つ足)脂肪・淡白制限と、自然食すなわち大量の野菜・果物ジュース(カリウムとポリフェノール)、豆と芋(ビタミン類その他)、海草(ヨード)、各種消化酵素成分(ジャスターゼやパンクレアチン、果物の蛋白・脂肪分解酵素)の摂取であり、人体での栄養物の吸収や代謝を正常化し、免疫能を高めて自然治癒に導くものであり、わらわれの十数年にわたる経験からも、進行がんで60%超、リウマチや潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患、メタボリックシンドローム患者において約8割の有効性をみている。
栄養、代謝療法等の世界の潮流として、難病性疾患であるガン、自己免疫性疾患、メタボリックシンドロームなどが、食事と生活習慣の改変によって相当程度治癒に向かう知見が得られている。アメリカが「デザイナーフーズ計画」によって1992年以降ガン死亡が逓減した事実を基盤とし、メタボリックシンドロームの病態解明とその改善・治療方法の策定と推進は、日本に限らず世界的課題である。
「胃相・腸相から見たメタボリックシンドローム」
掛谷和俊氏(半蔵門胃腸クリニック理事長・医学博士)
人にはそれぞれ人相があるように、胃や腸にも人相(顔)があり(「胃相・腸相」=新谷弘実アルバートアインスタイン医科大学教授が提唱)、
10数万人の胃腸内視鏡検査の経験から、胃相・腸相が人の健康に密接に関係していることを目の当たりに見、とく胃相・腸相が悪いと循環器疾患との関係が極めて密接であることがわかった。
肉食(動物性蛋白)とか暴飲暴食、アルコール、タバコといった悪い生活習慣を続けていることや、さらにストレスが加わったりすると、胃や腸に負担がかかり、胃の粘膜障害や活動能力の低下を招き、これが悪い胃相の原因になること。同様に、腸についても、悪い生活習慣が腸相を悪くする。
従来の患者の中で、胃や腸のガンは切除によって完治したにも拘らず、意外と早く亡くなる人があり、その原因が心筋梗塞や脳卒中など循環器疾患である場合が多い。
胃相・腸相が悪いと、メタボリックシンドロームに罹りやすい(77%)
胃相・腸相が悪いと、メタボリックシンドロームをはじめ、脳卒中の原因となる頚動脈硬化症や虚血性心疾患を引き起こしやすいということもあり、いままでの臨床経験から、胃相・腸相と循環器疾患との関係を推察し、対象の患者を人間ドックで検査し、相関関係を調べた結果、大腸疾患では、ポリーブ、憩室症、それから腸の粘液がねばねばと脂っぽかったり、腸壁に便汁がこびりついているような症状が見られた。腸相が非常に悪い人については、メタボリックシンドロームに罹りやすい(77%)ことがわかった(対象は28.5%)。
血栓の予防については、数種類のサプリメントが市販されており、中には効果や有効性が証明されているものもあり、今後はエビデンスや安全性などについて高いハードルはあるものの、メタボリックシンドロームについても、サプリメントが重要な役割を果たすのではないかと考え、期待している。
「血栓症を予防するために」
一杉正仁氏(獨協医科大学法医学講座准教授・医学博士)
血栓症は、虚血性心疾患や脳卒中の原因であり、わが国の死因の約30%に関与していることから、この血栓症の病態解明と予防対策の推進が現代社会の大きな課題である。
長時間飛行機に乗った直後に肺動脈血栓塞栓症が発症することが知られており、エコノミークラス症候群と呼ばれている。これは、下肢を十分に伸展できない飛行機のエコノミークラスで、肺動脈血栓塞栓症が起こりやすいといわれて名づけられた。しかし、エコノミークラス以外の飛行機旅行者、ほかの交通機関利用者にも発生していることから、近年では旅行者血栓症と呼ばれている。
血栓症の危険因子を有する人、すなわち、肥満や糖尿病などの生活習慣病患者、心疾患、外傷、血栓症あるいは手術の既往がある人などは、とくに予防に留意すべきである。事実、旅行者血栓症に関する報告でも、9割以上の患者に何らかの危険因子が認められた。したがって、長時間の座位を余儀なくされる場合には、こまめに足を動かし、静脈還流を良好に保つことで静脈血液の粘度上昇を防ぐ必要がある。
納豆菌が分泌する酵素のバチロペプチダーゼF、血栓溶解作用や血栓形成予防
血栓症の予防については、日常の生活習慣、とくに食生活に注意して血液の流れを良好に保つことである。1980年頃、日本の伝統食品である納豆は血栓症の予防に有効であることが唱えられた。
納豆は、大豆に納豆菌を加えて、発酵することで作るが、その過程で納豆菌は数種類の酵素(たんぱく質)を分泌する。そのうちの一つであるバチロペプチダーゼFは、血栓溶解作用だけでなく、血栓形成予防効果もわかってきた。さらに、ヒトの血液粘度を下げて、血流を流れやすくすることも証明された。
近年、高齢化や生活習慣病患者の増加に伴って、動脈血栓症の危険因子を持つ人が増加してきたが、長生きの秘訣は血液の流れを良くして血栓を防ぐことである。