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2024.1.22細胞性食品の開発状況の現状と安全性評価令和5年度東京農業大学総合研究所 食の安全と安心部会

2024年2月19日(月)〜3月4日(月)オンラインにて、食品開発展プレゼンフォートナイト2024冬が開催された。ここでは(一財)生産開発科学研究所による「アスタキサンチンその研究史、自然界での機能、注目される生理活性」を取り上げる。

一般社団法人 細胞農業研究機構 代表理事 吉富愛望アビガイル

肉や牛乳、卵が食べられなくなるという「タンパク質クライシス」を迎える可能性が囁かれているが、「食料安全保障や環境負荷の低減に貢献する可能性がある」として、細胞性食品の開発が世界各国で進んでいるという。細胞性食品であれば細胞に直接栄養を与えて必要なタンパク質を生産できるため、従来よりも少ない飼料で動物性タンパク質を得られるからだ、と解説。現在多くの国やグローバル大手企業が細胞性食品への投資・規制枠組の整備等を通じて情報収集を進めている状況だという。細胞性食品は未知の分野で成功すれば社会的インパクトは大きい。そのため各国が他国より早く、他社よりも早く、新しい技術開発したい、情報収集したいという動きを活発化させている。しかしあくまで未知の分野であり、特に食品の安全性について厳しい基準を設けている日本ではまだ細胞性食品を食べることもできない。とはいえ国内のスタートアップ企業では、すでに培養フォアグラの開発に成功しているという。

そもそも細胞性食品は、細胞に直接栄養を与え生産技術そのものを変えて生産する食品だ。例えば、細胞に直接栄養を与えてお肉を生産する場合、通常、食用牛肉は2年ほどかけて飼育する必要があるが、細胞性食肉であればもっと短期間に少ない飼料と飼育で効率的に食肉を生産することができる。さらに、細胞性食品には動物や植物の細胞を培養したものを原料とする「育成細胞食品」と、細胞を原料とした「細胞性加工食品」の2つのパターンが考えられる。いずれにせよ既存の大豆ミートのような植物性の代替食品とは全く異なる新規の食品ジャンルだ。現在、細胞性食品を日本で食べることはできないので日本人で細胞性食品の必要性を感じている人は多くないと推測されるが、世界は大幅な気候変動や飼料不足、食糧需給の不安定供給さをより深刻に考えており新しい技術を自国で生み出し、万が一の食糧飢饉に備える必要があると考えているという。

現在、各国で研究が進められている細胞性食品には「細胞性チキン・細胞性ステーキ・細胞性フォアグラ・細胞性サーモン」などがある。シンガポールでは2020年に細胞性鶏肉のチキンナゲットの販売を世界で初めて許可し、アメリカは細胞性食品の技術開発企業が世界最多、「細胞培養」チキンというラベルも承認されたという。イスラエルは細胞性食品の試食ルールを整備していて、細胞性食品の投資額は世界の36%を占めている。オランダは細胞農業に83億円の補助金を出すなど、細胞性食品に向けて世界各国がポジティブに動いている。吉富氏も実際に国外でサーモンや牛肉の細胞性食品を試食したこところ、3Dプリンターを使って形成されていて、おいしさはもちろん、食感(歯応えや舌触り)まで再現され、お肉にはお肉らしさ、魚には旬の魚のような味わいがあったことに驚いたという。

この細胞性食品を開発するには、開発技術を進める「細胞農業」も必要だ。細胞農業とは細胞食品を作るための技術の総称で、行政や業界団体が使用する言葉だ。各国は細胞農業に対する議論促進に向けて「①国家の食料安全保障上の戦略において細胞農業が可能性のある技術であること」「②技術開発と並行して安全性要件等について産業界から情報を収集し、検討を進める体制があるかどうか」「③情報提供機会が国内外の企業に対して広く開かれているかどうか」「④一般への幅広い提供の準備ができていない段階でも、一定のルールのもと、開発に携わっていない第三者が希望すれば細胞性食品を試食できる環境があるかどうか」といったことを議論のベースに仕組み作りを進めていると解説。

現在、日本では細胞性食品の販売を阻む法律は何もないが、細胞性食品を安全に生産するための方法論について官民間の共通認識がなく、その状況で販売を開始することははばかられるため業界は販売に踏み切れないという。また、安全性についての考え方が業界と行政では異なる部分があり、まだまだ議論が必要な状況だ。細胞性食品の安全性については、国際機関のFAO(国連食糧農業機関)や各国政府が提出している見解書などを中心に、日本では厚労省の調査部会や食品安全委員会からの委託研究によって情報整理が進められている。現時点では行政は「本格的な研究開発が国内で行われ、安全性についての見解が確立されなければ国としての方針や対応は定められない」と産業界の開発を待っている段階で、一方、業界側は「規制当局の見解が提出されないと安全な細胞性食品開発の本格的な研究開発が進められない」としており、双方が双方の出方を待っている状態であるため、国内での細胞性食品の産業開発や知見の蓄積は全く進まない状況だと解説。業界と行政が同時並行的に協力し合い、公益に値する「安全性の担保」「ガイドラインの策定」などを進めていく必要があるのではないか、と吉富氏は指摘。 細胞農業研究機構の現在の立ち位置は、「現在は国内の知見がバラバラ」という状態なので、「1、開発者向けの勉強会」→「2、安全性について国際的な見解を理解、統一」→「3、業界としての安全性について合意形成」と、細胞性食品の安全性(リスク評価・リスク管理)に関する考え方やルールについて産業界としてステップ方式で合意形成できることを目指していると話す。また、日本は良質な天然食材を豊富に持っており「細胞ホルダー」としてのアドバンテージも見逃せない。日本は細胞性食品の開発は遅れているが、日本が持っている細胞のポテンシャルと日本の再生医療などの高い技術から、日本は細胞性食品と細胞農業のポテンシャルが高いと世界から動向が注目されているという。しかし日本の今の状況では、細胞性食品の輸入も難しく国内で試食もできない。日本国内での環境整備を早急に進め、いずれ細胞性食品が消費者の選択肢の一つになることが求められるのではないか、とまとめた。

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